埋物の庭

埋物の庭

街中にあるつい見落とされがちで埋もれてしまっているもの(=埋物、まいぶつ)を紹介します。

新宮 過去と現在それから未来

宣言が解除されたので和歌山に旅行に出かけた。

 

白浜、熊野、新宮、紀伊勝浦

このあたりに来るのはこれで3回目だ。

 

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王子ヶ浜

前回は卒業間近の大学4年の2月に来た。

宗教学実習という授業で熊野信仰について学んだり神倉神社の御燈祭に参加した。

 

その前は大学1年生の8月。

ひとりで東京から青春18切符で大阪を目指す道中だった。紀勢本線はとてつもなく長かった。

 

新宮駅で降りるのもいよいよ今回で3回目だ。ここはJR西日本JR東海の境界駅。

 

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紀勢本線の路線図

 

新宮駅には踏切がある。

初めて来たときはこの場所に立ってずいぶん遠いところに来たものだと旅情を感じた。そして2回目、3回目と来るたびに思い入れが深まっている。

自分にとって特別な場所だ。普通の踏切だけど。

 

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神倉神社のある権現山が見える

 

3回目なので町の様子はだいたい知っている。

今回はレンタサイクルを借りて一日ぶらぶらした。

 

神倉神社の階段はあいかわらず急で、よく祭りのときここを松明をもってわらじで歩けたなと驚く。

 

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参加した回だった

 

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石段を登りきるとゴトビキ岩と拝殿があって海を望める。

海が見えたので、浜に向かった。

 

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王子ヶ浜には前回来たときからずっと心惹かれている。

この海岸は熊野川から流れてきた砂礫でできた礫浜だ。

 

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足元の石が波で崩れていく音を聴いているととても落ち着く。

 

果てしない海を見つめながら、南方の浄土を目指して渡海した人たち(補陀落渡海)のことを想像する。

海は生命の源であるけれど人間は海では生きていけないという矛盾。

 

寄せては返す波を見つめているうちにいまがいつなのかわからなくなってくる。

かつてこの光景を見ていた自分、いまの自分、いつかの自分。

過現未一切の私が波音のなかで融けていく。

 

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新宮から紀伊勝浦までバスに乗った。

バスに乗っていると前回王子ヶ浜からなぜか7km先の宇久井駅まで歩いたことを思い出す。

 

 

なぜかどうしても歩きたくなって、夜行バスの時間ギリギリまで国道沿いを歩いたのだった。

 

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当時の写真

 

当時聴いていたパスピエの『&DNA』をバスのなかで聴く。

 



 

「DISTANCE」→「ハイパーリアリスト」→「ああ、無情」→「メーデー」→「マイ・フィクション」→「スーパーカー」と聴いていると、このアルバムはいまこの瞬間のために作られたのだという気がして泣きそうになった。

 

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ずいぶん感傷的になってしまった。

 

最後に王子ヶ浜をグーグルマップで見ているとこんなクチコミがあったのでこれでオチをつけよう。

 

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あなたの言っていることをいくつかのビデオで確認できるようにしたぞ、海外ニキ!

 


 

はにわ通信 第6号「日記代わりの近況報告」

どうも、島鉄です。

はにわ通信がわりと続いていることに驚いています。

そんなことはどうでもいいですね。本題にうつります。本題の内容もどーでもいいかもしれませんが……。

 

(最近読んだ漫画)

『ストップ!!ひばりくん!コンプリート・エディション』

こないだの“はに通”に書いたとおり、『ストップ!!ひばりくん!コンプリート・エディション』を買いました。

わたくし島鉄はアニメ『Sonny Boy』にドハマリしてしまいまして、キャラクターデザイン原案をつとめた江口寿史氏の80年代ど真ん中な絵柄の怪作『ストップ!!ひばりくん!』を買おうと思ったのでありました。

 

もともと『ストップ!!ひばりくん!』自体は読んだことはあったのですが、未収録原稿が載っているとゆーことでコンプリート・エディションの購入を決意。

 

 


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一番好きなコマ。気持ち悪い、って言われたらこう返そう。エピキュリアンでいこう!

きもちいーもん、とかわゆく言えるかはともかく。


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ぶっせん』にも人間はエクスタシーによって突き動かされるとゆーコマがあったなー。

気持ちのEことはよいことなのだ。

エクスタシー最優先は問題も孕んでいますが、周囲に否定されそうなときに自己肯定感を醸成するにはそういう考え方もありかなぁ、なんて。

 


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話の内容は美少女だと思ったら男だった、とゆーギャグ漫画(注:少女漫画にしばしば見られる女子だと思ったら男子だったというのとは少し違う扱いですね)。

 

この上記2コマは、いまや主人公の耕作くんのほうがどうして?(性的指向と嗜好をごっちゃにするな、異性愛だけが許されるのか)と問われそうですね。

 

それは変だ!と言われたくらいで、すごすご引き下がってはいけないわけです。時代が変われば価値観も変わる。

普遍的な価値観も当然ある……でしょうけど。

 


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そんなギャグ漫画なのですが、回が進むにつれて段々とラブコメちっくになっていくのが面白いです。

 


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ひばりくんは美少女、のような少年なのですが、ときおりカッコいい(男らしいとゆー言い方は嫌いなのでこう書きます)性格を見せる場面もあってステキ……。


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ちなみに末妹のすずめちゃんにもカッコいい一面が……。

 

個人的に昔のギャグ漫画(時事ネタや作者が出てくる、くだらない)のノリは嫌いではないので、フツーのギャグ漫画としても楽しめました。

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ただ、笑いのツボは人によって様々なので、オススメとは言いませんが……。


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家族(どころか飼い犬も)みんな同じ顔の上、大学進学してからも高校に来ては首を突っ込む、ガタイの割に弱気な梶先輩だいすき。

 

今だと掲載できなそーなギャグも……。f:id:haniwakai:20211014223455j:image


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(これギャグ扱いですけど、けっこーいいこと言ってますよねえ)

 

ひばりくんは元祖男の娘キャラ、なんて紹介されているのを見かけますが実際どの漫画が初出なのでしょう。

少女漫画なんじゃなかろーか、と睨んでいるのですが、これは今後の宿題とゆーことで。


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『11人いる!』のフロルは男の娘ではなく両性類だし、ちょっと違うかなー。

 

 

漂流教室

これもアニメ『Sonny Boy』の原案となっている作品です。作者はご存知、自邸が色彩の暴力&グワシのまことちゃん、でお馴染みの楳図かずお先生。

小学生と先生(そして給食の出入り業者)がいきなり学校ごと荒廃した謎の世界に漂流し、サバイバルするという内容の漫画です。

 

アニメ『Sonny Boy』はサバイバル、というよりはセカイ系であり青春モノなので、もちろん『漂流教室』とはストーリーがまったく異なります。

 

主人公が漂流の原因ではないかと糾弾される場面が『Sonny Boy』にもあるのですが、『漂流教室』にも同じようなシーンがありました。

共同体内の悪に祀り上げられてしまうさまは恐ろしいです。

 

母の愛、大人を含め人間が信用できない、飢えの恐怖、未来は明るいとは限らない……こういったテーマが『漂流教室』では見て取れます。

gaerial.hatenablog.com

まさしく楳図かずお先生や少し上の世代が経験した、戦中と戦後の大幅な価値観の転換、飢え、人間不信

といったものがこの作品には盛り込まれているようです。

 

もっとも、楳図かずお先生は一族が教員、と恵まれた家系かつ奈良県の山間部に育っているので都市部ほど「飢えの苦しみ」に悩んでいたかどうかは定かではありませんが……。

 

私の祖父母も配給制や金属などの物資不足で悩んではいたものの、田舎暮らしで都市生活者ではないため、「飢えていた」話は聞いたことがありません(だから田舎に飢えた子供がいないとは限りませんが)。

 

しかし、物が不足していたという話は聞いたことがあります。日本軍含め精神論が盛んに言われていた背景には、圧倒的な物質的不足があるのでしょう(九段下の昭和館に、戦時中に増産された物は下駄のみ、その他殆どの物資が不足していたことのわかる資料が展示されていました)。

 

奇しくも漂流した子供たちは平和な時代に生まれながらにして、戦時中と同じ「物の不足と飢え」、子供だけで生き抜く、という難題に立ち向かうのでした。

 

しかし、楳図かずお先生が奈良県に縁のある方(注:本籍は奈良県五條市、産まれたのは和歌山県高野町だそう)だったとは不勉強ながら知りませんでした。

 

また、この作品には楳図かずお先生の幼少期の経験だけではなく、作品の執筆された70年代の高度経済成長の終焉、環境問題の露見、科学技術の発展による薔薇色の未来はありえない、という時代背景が巧みに盛り込まれており、厳しい環境の中でときに争い、協力しながら子供たちが生きていくさまは人間というちっぽけな存在が一つの社会、共同体を営む苦しみを表しています。

 

主人公の母親が子供を思うあまり、周囲から狂人と思われようとも、工夫をこらし、時を越えて(あっ、これネタバレになってしまいますね)薬やナイフを託す場面は、絶望の中でも人を信じる心が不可欠だと感じさせられます。(もちろん親子愛、もなのですけど必ずしも親子の絆が強いかというと、古くは『東京物語』や前述の『Sonny Boy』に至るまで親子関係が利他的で愛に満ちたものとは限らないですしね……)

 

人を信じることは難しく、対立することはいとも容易い。

 


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個人的には最終巻での皮肉たっぷり(に聞こえてしまう)な未来コンピューターとのやり取りが好きです。


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この回がなぜ印象に残ったのかといえば、似たようなテーマの本をつい最近読んだからなのでした。

 

(最近読んだ本)

『人新世の「資本論」』

 

マルクスの著書『資本論』は有名ですが、ソ連崩壊や、共産主義大国の中華人民共和国は実質的に市場経済を受け入れていることから「共産主義=失敗」と思われがちです。

 

この著書では近年の全世界規模の環境変動とそれに対して資本主義では対処しきれないこと、前述の『漂流教室』で未来コンピューターが示唆したような科学技術の発展により、危機を乗り越えられる、というのは幻想である、と述べています。

 

そしてこの環境変動、格差拡大する社会を変えられうるのがコミュニズム(ひいてはコーポラティズム)であると結論づけています。

 

こういうと「はいはい、いつものマルクスバンザイ!論ね」と簡単に片付けられそうなのですが、モノを消費するのではなく自分たちでモノを生み出す力を取り戻すという観点や、国でも個人でもなく共同体の所有物とすることで、一見不自由なようで資源の浪費を防いでいた、という指摘に「自分は消費社会にどっぷり浸かっていたなぁ……」と思い返しました。

 

消費、ってエクスタシいんですよね。

でも、それは結局ムダなモノを作って使って捨てるサイクルに乗っかってしまい、そのモノが安ければ安いほど、生産している人に対価が払われていない(=搾取している)ということですから、よーく考えてせめて賢い消費をしなければなぁ、と反省しました。

 

つい最近、「海岸に漂着したプラスチックでお皿を作ってます、SDGsに貢献してます」なんてニュースを見て違和感を覚えてしまったのもこの本を読んだ影響でしょうか。

我々は多彩なエコバッグ購入や消費エネルギーを考慮していないリサイクルに目を奪われることなく、そもそもの消費社会のありように対して疑念を持つ必要がありそうです。

 

なんか、私の備忘録みたいになってしまいました。忘れっぽいから丁度いいですね(読者満足度を一切考慮しない記事……)。

 

読んだよ、見たよ、知ってるよ

って情報を綴るのって楽しいですね。

そろそろ文フリの季節だなぁ……。

 

ではまた。

(島鉄)

 

はにわ通信 第5号「庵野秀明展と『Sonny Boy』」

◇2021-10-18

最近は朝ドアを開けて外に出ると部屋のなかとだいぶ温度差があり季節の変化を感じる。冷たくなる頬と吸い込んだ空気の清涼さにまだ冬ではないけれどまるでスキー場にいるような気分になる。来年はスキーをするのもありだ。

 

庵野秀明

国立新美術館でやってる庵野秀明展を観てきた。

 

庵野作品は好きなのだが、正直庵野の内面にフォーカスする風潮には距離をとっていたので、今回の企画展に最初あまり乗り気ではなかった。

しかし展示を観るとそんなことは杞憂で、展示品の圧倒的な物量によって『エヴァ』や『シン・ゴジラ』に至る創作の流れがわかり大満足だった(観終わるとすごい疲れた)。このひとはずっと爆発とかメカニックとか怪獣を好きで描き続けてるんだなと。

 

庵野の描き方はオタク的だと同行の友人が言っていて納得した。物事を抽象化してその本質を端的に描こうとするアーティスト的な創作と比べて、庵野はどこまでもディテールを追求して情報量をぶつけてくる。

エヴァのオープニングなんかも改めて見るとサビの盛り上がりに合わせてカットの切り替わりが速く激しくなっていることに気づく。庵野は構図も卓越しているので、その速さと合わさって気持ちのいい映像経験が生み出されるのだ。

 

◇『Sonny Boy』

Sonny Boyはその点で庵野と真逆の映像だった。漂流世界は現実とかけ離れた抽象的で象徴的な背景によって表現されている。

 

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公式サイトより。闇のなかで手をのばす希。

 

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公式サイトより。第8話『笑い犬』。

 

物語の説明も最小限に抑えられていて毎話いきなり想像もつかなかったような話が始まる。余白の大きさのおかげでどこまでも飛躍していく物語が成立していた。

 

最終話については、3年前くらいの自分だったら納得いってなかったかもしれないが、今の自分にはこれでよいと思えた。ぼくも成長しているのだと信じたい。

 

【小説】さんぽ・まち・かんさい――清水の舞台から

  ノロノロ谷町六丁目という地下鉄駅まで向かう二人の若者。

 

 たんぽぽのような髪の色と綿毛のような髪型の二人が歩くさまは、遅れてやってきた春という風でどこかおかしかった。

ちなみにこれは、5月半ばとしては「観測史上最高の31度を記録したあの日」の大阪を飛んでいたカラスの感想であるから、道行く人からすると「並んで歩くなや、ボケ」という感想以外は特にないだろう。

 特に谷町筋は車道こそ広いが、歩道は御堂筋と違って*1それほど広くもないので、並んで歩かれるとそれはそれは顰蹙を買うことになる。

 暑いんだから外にでなくてもいいのに、そういう日に限っておじいちゃん(タンクトップが駱駝色なのか元々は白だったのか分からないファッションスタイル)がフラリフラリ、と歩いているのだから困る。

 

「なあ、それにしてもなんで5月にもなってサークルどこも入ってへんの?もしかしてどこか体験したけどやめたん?」

「その事情は周もよーく知ってるでしょ、今頃ようやく引っ越し先が決まったんだから」

 いささか冷たい口調だったかもしれない。周は少し眉を下げると、せやったねゴメン、と呟くように返した。

 

 私は3月の上旬、ギリギリまで補欠合格あるいは3月入試の合格を狙っていて「神路くんは浪人してもなお、あきらめない心を持っているね」と予備校講師からも感心、というか呆れられていたのだが、お陰様でK大進学が決まったころには引っ越し準備が間に合わず、マンスリーマンションを借りて奨学金手続きからガイダンス、シラバス説明・前期講義登録とすべてのかたが付いた頃には放心状態となっていた。

 

 辺りを見渡してもサークル新歓などもう終わってしまっているのではないか、というだけではなく、この高槻(山奥)キャンパスで大手を振って歩いているのは「体育会所属」のいわゆる軟弱サークル*2とは一線を画す、ガチガチ本気の部活動の方々なのであった。

なにせキャンパス内に3つのグラウンドとアイススケートリンクなんかが完備されているのだから、スポーツに取り組むのにはうってつけの環境だし当然と言えば当然だ。

 

 私はスポーツとほぼ無縁な人生を送ってきた。常に通信簿は3だった。出しゃばりすぎず、変に目立ちすぎず。

小学校ではスイミング、中学でキツくて水泳部を退部し、そのまま帰宅部、高校で卓球を始めるも6月には幽霊部員という輝かしくない経歴の持ち主だ。

 

 そして体育会の人たちほど本気でなくてもALLラウンドサークルや、和気あいあいとバレーボールを楽しむサークル(私は高校時代にレシーブで失点、トスはやや後ろにいき、サーブはネットに阻まれ、最終的にスマッシュを顔面に受ける係と化していたので、とても入れないけど)もあることが分かったのは4月の終わりごろ、ようやく従弟のアパートに引っ越しが決まり、GWに東京に帰ってホームシックを解消しようとでも考えていた時分であった。

なので、当たり前ながら5月にもなるとサークル勧誘はすっかり終わっていた。これは高槻キャンパスか千里山の本キャンパスより小規模なことも影響してるだろうけど。

 

 

「ボクはオープンキャンパスの時点でもう入りたいゼミもサークルも決まってたから、あんまし分かれへんねん。ゴメンね、変なこと聞いてもうて」

「いいよ、別に。もう少し前からしっかり大学生活について考えておけばよかったんだし」

 この機会を逃したら、もしかすると所属サークルなし、キャンパス内友人なし(今だって同じ講義を何個か受けている知り合いが一人、二人いるばかりだ)、高槻の山奥と松屋町を往復するだけの、人里に高頻度で降りてくる山猿状態になってしまうかもしれない。

それだけは避けたい。なんとしてでも避けたい。

この先、入るサークルがカルトであったとしても。

というかこの場合、アパートを貸してくれる従弟がカルトサークルに入っていることになるから、どう頑張っても逃れようがない。終わった……詰みだ。もう人生終わりだーー!!むしろ、清々しい。

 

 そんな思いを胸に抱えているうちに谷町六丁目駅に着いた。しかし階段を下っていくと心なしかダウナーな気分になってくる。位置エネルギーと同じく私の精神エネルギーは下がっていった。

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あ、餃子美味しそう。単純な私の精神エネルギー。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 二駅ほどで「四天王寺前・夕陽丘」というえらく長い名前の駅に着いた。どうやらここが待ち合わせを約束しているカフェのある場所、そして清水の舞台の最寄り駅のようだった。

 

「それにしてもなんで、周は新入部員なのに早速勧誘なんてしてるの?」

 上級生が勧誘して、同学年の新入部員に初めて会う……という形が、一般的な気がする。これは浪人せず大学で青春を謳歌している高校の同期から聞いた確かな情報だ。

 

「いやまぁ……うちの部活めっちゃ小規模やねん」

 よくよく聞いてみると、部活動の要件、5人以上の部員数を割ることがないよう、新入りだろうと何だろうと、5月末までは手当り次第声をかけているのだという。

 

「ホントにね、ボクもなんやかんや高校まで奈良に住んでたし大阪のことあんま詳しないんやけど、このサークル入ったら友達もできるし関西中の色んなとこ行けるし、ええことづくめやと思うわ。コーくんもアパート来る前、ブラブラ歩いてたし、気に入るんとちがうかなあ」

 そんなバラ色の未来が待ってます、というようなセリフを聞くとどうしても疑い深くなってしまうのが人情というもの。

やはり一寸先は闇。怪しいサークルなのかもしれない。カフェは軽く軟禁するのに都合がいいし。

 

「勧誘、うまく行ってるの?」

「あはは、恥ずかしながら今のところ3人誘って全滅しててん。」

 ええことづくめなサークルの勧誘なのに3人中3人が入部を断る……怪しい、怪しすぎる。ぶらぶら歩く人が役立つ非合法事業……自爆テロあたりか。流石にそれは大仰だし、ピンクチラシや分譲マンションの広告を電柱に貼り付ける作業だろうか?

単純に周の押しが弱いのかもしれないけど。

 

「そしたらちょっとだけ歩こぉか。大体、駅から5分くらいかな?谷町筋を南に下って角曲がったらすぐやから」

 こんな閑静な住宅街でピンクチラシなんて貼ってる姿を見られたら大変なことになりそうだ。いや、この辺なら分譲マンションのツートンカラー印刷のチラシをこれでもかと電柱及び壁にペタペタ作業のほうだろうか。

 

「なぁ、ボーッとしてるけど人の話聞いてんの?」

 四天王寺近くは名前の通り、四天王寺があるのはもちろん、お寺が多い。

 さらにいうと学校も多く――これはあとから知ったことだけど――どの学校も頭の良い、いわゆる「かしこ」*3な地域らしかった。

 

「んー、あぁなんかこの辺はお寺多いらしいね」

……やっぱり話聞いてへんなぁ。この近くはたしかにお寺多いけど。そろそろ着くんと違うかな、清水寺

「あ、あった!!ここ!ここが清水寺やねん」

 

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 たしかに清水寺と石碑に書いてある。

「んー、京都のなら修学旅行で行ったけど、やっぱりここは知らないな……

 

 そういえば北海道名物の「白い恋人」を真似た「面白い恋人」というパクリの上に自分から面白いと言っている土産があったな。

いまに清水寺から「この狼藉者!堪忍しておくれやす~」とでも言われるのではないか。

「パクリやと思うてるやろ。ちゃうよ、ココは大阪夏の陣で焼失した後に京都の清水さんにあやかってつけたんやって。本尊も清水寺とおんなし観音さんやし」

 

 周はそれに……と続けて清水寺清水寺たる所以を話してくれた。なんと、この大阪清水寺には本家の音羽の滝のように「玉出の滝」があり、清水の舞台もあるというのだった。

 

……ということは本家よろしく登るのか、坂を。

「大丈夫だいじょうぶ!ウチの実家から行くんやったら坂登らなアカンけど、夕陽丘は名前の通り丘の上やから、むしろちょい下るくらい」

 それを聞いて安心した。下り坂なのか。これから下り坂というワードは本来大学生活をこれから始める者にとって不吉極まりない言葉だが、それより坂を上り下りする無益さのほうが精神的にきついのだから安心するのも仕方ないだろう。

 

「わざわざ来たし、清水坂下ってみる?」

「登らなきゃいけないの面倒だから、そのままお寺に入るよ」

 

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「えぇ〜!そーゆーとこが散歩の醍醐味やんかぁ」

 1ヶ月前に入部したにもかかわらず、一端の歩き屋(造語)の顔をしている。

人生は谷あり山あり。下ったら上る。ある意味ポジティブに捉えれば良いことなのかもしれない。

 

位置エネルギーの浪費とも言うけど」

「もう、またそんなこと言うてアホやなぁ。このあとカフェでカロリー補給するんやから、ええやんか。な、行こ」

 ついグチが口に出てしまった。清水坂は階段の「踏み板」が2.5歩分ほどの長さで非常に歩き辛い。大体カフェでカロリーを補給できるのは嬉しいが、奢ってくれるのだろうか。大阪人はケチ*4だから奢ってくれなさそうだ。人にタカる前提の人間が人にケチをつけていいかは分からないけど。 

 

「ちょうど、この近くには料亭があったらしいねん。松尾芭蕉さんも来はったらしいわ」

 清水坂を降りていく途中、ちょうど右手側の石垣の上に、かつて『浪華百景』として名高い《料亭 浮瀬》があったらしい。

明治にはその隆盛もなく売却され姿を消してしまうものの、あの松尾芭蕉も来たというから、往時とても賑わったであろうことは想像に難くない。

 

「よく知ってるね、そんなこと。国文学専攻だっけ?」

……いや、実は清水寺行くからには紹介しとこー、と思ってさっき調べてん。ボクは芸術学美術史専修。16も専修あるから、わけわからんくなるけど」

 地元の人は誇りに思ってるけど、案外知られていない史跡は多いものだ。《浮瀬亭》の場合はそこにあった跡すらほぼ残っていないから、なおさら人々の記憶から忘却されるのも早かったのだろう。

 

「美術史かぁ。いいなー、文学部は色々あって。こっちは専門科目に分かれるとはいえ一つだよ。災害マネジメント、とか何するのか全然分かんないし」

「何するんやろね?でもええやんか、12回生の時は皆で同じような講義受けるんやろ?気の合う友達すぐ作れそうやん」

そういうものだろうか。山奥に籠もって自然災害について学んでいくうちに芽生える友情、恋、青春……

 

アリかもしれない。大アリではないか。

危機について学ぶのだから、吊り橋効果というやつのご加護も得られそうだ。

 

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「ほな、清水坂の下まで来たし登ろか。」

 え……早々とまた登るのか……

そう思い、清水坂から来た道を見返すと、右手に寺の石垣と塀が並び、緩やかな坂が続いているさまが見える。 

大阪都心とは思えぬ静謐さを湛えたこの場所はなんだか不思議だった。

そして、京都の清水寺ほど有名にならなくても、街中にひっそりとある良い風景だと思った。静かなのは高校生の行き交う平日でなく、休日の14時過ぎでほとんど人も歩いていないからだろうか。

 

「少しだけ写真撮っていい?」

 もちろん、これは坂を登る気力を回復するためでは断じてない。

ちょっと足が疲れてはいるが、そういうわけではない。

ただ、この景色を残しておきたい、それだけだった。ほんとだよ。

 

「よかったやろ?清水坂降りて」

「うん……よかった。清水寺寄って間に合う?」

 時刻は1425分、5分前に集まることを考えると約束まで30分しかない。

 

「急ご、走るで!」

「え?!」

 言わなきゃよかった。

静謐な空間をダッシュで掻き乱すことは本意ではなかったが、正直隣の高校生もよく部活でダッシュしてそうな坂(高校生とは学校の近くに手頃な坂があればダッシュする・させられる生き物なのだ、これは日本全国共通なはず)なので許してもらいたい。

 

 とても20歳そこそこと思えぬほど息を切らしながら、清水坂を駆け上がり境内に入ると驚くほど見晴らしがいい。 

 通天閣も見える。それどころか日本一高いと噂のあべのハルカスも見えるではないか。

「見晴らしめっちゃええトコやろー。真夏は行く気せぇへんけど、春秋の晴れた日に行くと気分よぉなる気ぃすんねん」

 

「今日の気温、ほぼ真夏と変わらなくない?」

 正午を過ぎ、3時に近くなっているとはいえ気温29℃

 

「いやー、風が気持ちええわぁ」

 意図的に無視されている気がしてならない。

「周がすっかり健康体になって安心したよ……。もうこっちはヘロヘロ……

 

「小さい頃はコーくんのあとついて回ってたもんなぁ。あのときの元気はどこいってしもたん?」

小学生くらいまでは病気がちな周と私は、よく比べられて伯母さんに羨ましがられた記憶がある。居心地の悪さを少し感じて、いい気持ちではなかったけど、今思えば私の取り柄は健康というくらいで他には何もなかった。

「人間なんて言ったって達者が何より」とはいえ、20代にして衰えきった自身の体力から唯一の長所が無くなるのではないかと空恐ろしくなった。

 

「昔はこっから海が見えてたんやって。今以上に眺め良かったやろなぁ」

「今でも十分じゃない」

 周囲が完全に墓地であることを除けば、小ぶりで可愛らしい寺の鐘と通天閣あべのハルカスを写真に収められる、ここはちょっとしたフォトスポットといっていい。油断すると写真に墓石が入ってしまうけど。しかし、ジメジメした墓地よりこういう見晴らしのいいところに埋葬されたい、と思うのは分からないでもないな。

小さいながら存在する清水の舞台からの見晴らしは本家同様に抜群だ。

 

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「ねぇ、ところで音羽の滝……みたいな滝はどこにあんの?」

「んー、そこにあるよ」

 指さす方向を見ると……何も分からない。

どうやら本家より勢いが明らかにないが、お堂から3手に分かれて樋から水の落ちる、京都清水寺音羽の滝にそっくりな滝があるようだ。

見えない……ということからわかるとおり、滝のある場所はここより低い。階段を降りていかねばならないようだ。うへー、また降るのか。

しばらく石段を下っていくと、たしかに京都の清水寺で見たことのあるような滝があった。

なんだか優しい水量の滝だ。名を玉出の滝というらしい。

「なんか滝の元気なくない?」

「うん、いつもあんな感じやけどね。昔はもっと流れが強うて江戸時代なんかは涼み料ってお金取ってたらしいわ」

 なんかお金を取るあたり、そこらへんは商売上手な大阪らしいな、なんて思った。でも境内を開放して、庶民の憩いの場にしたのだからある意味素敵な話かもしれない。

 

「せっかくだからお水取りする?」

「せやね、水貯まるの時間かかりそうやけど」

 たしかにあのチョロチョロ具合では相当時間がかかりそうだ。京都の清水寺では柄杓を落としてしまうか、と思うほどの勢いだったけど、ここは今にも流れが止まってしまいそう。

 

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それでも大阪市内唯一の自然な滝だというから、このチョロチョロがいつ止まってしまうかもわからない玉出の滝は貴重な滝に違いない。

 

「あれ?なんか奥の方に人おらん!?」

「あ、ホントだ。滝行してる」

 驚くことにここ玉出の滝は滝行できるのだ。

プールの腰洗い槽に浸かり滝行〜、とかフザケたこと(大阪なら確実に吉本行ったほうがいいと勧められるイチビリなヤツだ)をぬかしていた同級生がクラスに一人はいた。

それと同じくらいのことを大真面目に山伏の格好でやっているのだから少し面白い。

でも真剣にやっている方を笑うのは流石に悪い。

……そう思うと余計に笑ってしまいそうになる。

 

「やっぱり今日暑いから、滝行しはったんやろか」

「冬やるよりいいよね、滝行は。滝行って夏のほうが健康に良さそう」

 失礼ぶっこいてる二人*5

大阪府には箕面(北の方)に立派な滝があるけど、市内で滝行するにはココしかないから仕方ないのかもしれない。

 

スパワールド*6の滝のほうが勢いあった気ぃするなぁ」

「まぁ滝行は滝の水量が問題ではないからいいんじゃない」

 やっぱり失礼極まりない二人。

 

「時間も時間やし、とりあえずカフェ行こか」

「そやね」

 あ、関西弁がうつってしまった。

「そしたらまた階段ダッシュ!!」

「え?!また?!?」

 位置エネルギーの浪費、しんど。

 

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 表通りの谷町筋に出ると、先ほどの静かな清水寺の境内が嘘のように騒がしい。

お寺に入る前まではこの谷町筋も静かな通りだと思っていたのに。

 

 来た道を戻り、あべのハルカスめがけて谷町筋を南に行くと細長い茶色のタイルに覆われたビルが見えた。一階に大きく《Cafe 百花》と看板がある。

 

「あそこ、あの喫茶店で新入部員面接してん」

食べログ評価3.3……。信用に足りる数値だね」

「そんなんわざわざ調べてんの?」

「そこまで気にしてないけど、2とか4とか極端な評価されてる店は怪しいからね」

 

 私はこういう情報収集能力に関しては自信がある。もっと自分にとって大切な情報を収集しろ(高槻キャンパスが山奥に存在してる、とか)と言われそうだけど。

そんな自分のことが……嫌いになれない、でも十分じゃない。いつでも自分のこと一番見えない。そんな歌もあった気がする。なかったかもしれない。

 

 しかし、どんな人が中に待ってるのだろうか。

笑顔なのに目が笑ってない人、断定口調の人、とにかく早口でまくし立てる人……これらの人たちでなければよいのだけど。

 

 少しの不安を胸に抱え、アビー・ロードよろしく横断歩道を渡る*7と、こちらが店に入る前から手を振っている人が見えた。

だ、大丈夫。多分、いい人。いいんだ。行けばわかるさ。坂道を歩いてきたせいか元気はあんまりないけど。

 迷わず行けよボンバイエというよか、人生迷走、早くも家に帰りたい気分*8だ。

 

 右手と右足を同時に出す無意識なナンバ歩き*9をしつつ、私と周は手の振るほうへ誘われ《café百花》に入っていった。


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~訪れた場所~

 

 清水寺

客番札所 有栖山 清水寺 / 新西国霊場−新しい巡礼の旅

 正式な山号は有栖山(この山号、実に乙女チック)清水寺といいます。

 この一帯は夕陽丘と呼ばれ、寺町として四天王寺を中心に数々の寺社があります。閑静な雰囲気から学校も多く、大阪市内きっての文教地区です。

 文中にある玉出の滝、樋を流れる三筋の滝はそれぞれ「現在・過去・未来」を表し、商売繁盛の寺として尊崇を集めています。名前の通り(?)夕陽丘のため、高いビルが建つ前は夕焼けを眺めつつ淡路島や瀬戸内海を一望出来たとか。大阪湾、瀬戸内海方面は西であり浄土(は天竺のある方角と同じく西)信仰の隆盛から寺も大いに栄えたといいます。

 中興の祖である延海阿闍梨が近世に入って観音菩薩のお告げから京都の清水寺を模したことから今日の姿となったそうです。けっしてパクリ、ではありません。

 個人的には近代文明によって近世の遺産である「玉出の滝」が失われそう(実際、江戸時代に隆盛を誇った浮瀬亭は面影もありません)になるのを守った、という歴史が好きです。

 たしかに地下開発の影響で水流は弱いし、自然の滝なんて都会になくても困りはしない、のかもしれませんが、行政を動かして水脈が保たれていることは少し嬉しく思います。江戸時代の『浪速百景』の名所図会の構図が現在もそのまま残されている、なんて貴重ですよね。

 

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ぼちぼちでんな、とゆーギャグ(おもんな)を思いついてしまうほどにお墓に囲まれています。死後は鬱蒼とした木々に囲まれて誰も墓参りに来ない、なんてとこより駅近で見晴らしのいいところに埋葬されたいものですね。

 

 

 

 

*1:大阪都心を南北に貫く、大幹線の国道25号線。車道は全6車線の一方通行でアホみたいに広い

*2:除草剤が年々増えて置き場に困っているテニスサークル等

*3:関西弁では「賢い=かしこ」だと聞いたことがありますが、今も使われてるんでしょーか?!「お金持ち=ぶげんしゃ」と愛媛では呼ぶ、並みに廃れた方言ではないかと思っているのですが……

*4:偏見。ちなみにZOZOTOWNの送料自由化で購入者が自由に送料を設定した結果、関西2府4県は40位からワースト47位までにランクイン。軒並み安値を付けたみたいです。大阪府は46位。1位と47位の差は25円程度でしたが……。

*5:実際に滝行は可能で、冬場の寒い時期にされる方もいるそうです。予約が必要なので興味のある方は寺務所にTELしてみて下さいネ

*6:ドヤ街で有名な西成あいりん地区のほど近く、通天閣のまたぐらを抜け、新世界と合わせてプールと世界の温泉浴場を体感できる一大テーマパーク。夏場は子連れのプール利用客が長蛇の列を作るくらいには人気スポットーーそのすぐ近くで日雇い労働者が集う光景はなかなか貴重だと思うーーです

*7:これアビー・ロードに触れる必要がまったくないですね

*8:ちなみに高槻キャンパスは最寄の高槻駅まで徒歩40分と、講義を抜けて途中帰宅なんて不可能に近い。恐ろしいところですね

*9:実際にあったか分からないが、近代以前の日本人は同じ手足を同時に出して歩いていたという。いわゆるロボット歩きですね

はにわ通信 第4号「富士そば」

受験の思い出

久々に出社をした。1ヶ月ぶりくらい。私は基本在宅でやっている。

 

夕食を駅前の富士そばでとった。

 

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富士そばでいちばん好きなのは「冷やし肉富士」だ。

肉がたくさん入っていて温玉もわかめもあってお気に入り。

 

今回は富士そばがなぜかゲーム『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』とコラボして「赤富士」になっていたのでそれを注文した(富士そば変な企画しがち)。ついでに紅生姜天をトッピング。

 

 

富士そばには思い出がある。

 

私は小6のとき中学受験をした。

姉の通う中高一貫校がおもしろそうなので、私も入りたいと親にせがんで受験をすることにしたのだ。

 

2月の受験日、私は渋谷にいた。その学校は渋谷にあった。

これから始まる試験の前に、私は同行の母親と富士そばに入ってごはんを食べた。受験は午前中のはずなので朝ごはんだったと思う。

 

富士そばでは演歌が流れていた。あとで知ったが富士そばは社長が演歌の作詞をしていて、店内ではよく演歌が流れているのだ。

 

しかしそんなことを当時の私は知らないので、「なぜそば屋で演歌?」と不思議に思いながらそばを食べた。

食べ終わったあと、コンビニでチョコレートのガルボを買ってもらい食べた。ガルボもそのときはじめて食べたのだが、食べたことのなかった焼きチョコレートはサクサクとした食感でとても美味しかった。

 

肝心の試験は落ちてしまった。

葉っぱの問題が出てきた理科と計算がいつまでも終わらない算数が難しくて、解きながら「これダメじゃない?」と悟ったのを覚えている。

 

富士そばでそばをすすっていると、たまにこの小6の記憶がよみがえる。受験は落ちてしまったが、この日の記憶を思い出すのは好きだ。

 

Vチューバー

富士そばとコラボしていたゲーム『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』とのつながりで、このまえVtuberの兎田ぺこらがゲームの実況をしていたのを思い出した。

 

よく見たら前作っぽい

 

Vtuberが好きだ。最近は気がついたらYou Tubeで動画を見ている。

 

にじさんじの美兎ちゃんとか個人勢のぽこピーとかも好きだけど、ホロライブがいちばん見ている時間が長いと思う。

 

とりぷるさんの海外アニメっぽい絵柄すこ

 

なにがいいんだろう。

今までネット上で100万回くらい語られてきたと思うけどあえて書くと、


・それぞれ個性的なキャラクター

・ホロライブメンバー同士の掛け合い

・ファンとの交流、2次創作の豊富さ

 

このあたりだろうか。

 

ホロライブはメンバー同士がコラボを頻繁にする。コラボを通じて知らなかった他のメンバーへの理解もどんどん深まっていくので気がついたらホロライブ全体にハマっているのだ。

 

リアルタイム配信でファンと双方向に企画が盛り上がっていくのも楽しい。そしてファンアート文化が盛んなので、上にリンクを貼った切り抜き動画みたいないろんな趣向の2次創作が出てくる。おもしろいコンテンツがさらに魅力的になる好循環がある。

 

最近のホロライブはライブとか楽曲にも力を入れている。勢いのある若手アーティストと組んでいて曲がとてもいい。

 

深夜の全能感

  

最高

 

Vの者がすこなんだワ…

はにわ通信 第3号「ショッピングモール」

ショッピングモール

夏にアニメ映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』を観てからショッピングモールについて考える時間が増えた。

 


映画の舞台が、周囲が田んぼの巨大なショッピングモールなのだ。

 

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ティザームービーより引用加工。とてもいい夏映画なのでぜひ観てほしい。

 

田んぼと巨大なショッピングモール。私はこの組み合わせを知っている。大学時代に住んでいた茨城県だ。

 

茨城県つくば市。そこはショッピングモールの密集地帯であった。

とくにイーアスつくばは私のいた頃まだ周囲が広々とした田んぼや空き地で、突然モールが現れる光景はまさしく映画そっくりだった。

 

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イーアスつくば

 

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イオンモールつくば

 

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LALAガーデンつくば


私は東京出身で大学入学時につくば市に引っ越して、その車社会っぷりに驚いた。

 

幅の広い道路がまっすぐとどこまでも続き、人々は基本的に車で移動する(しかし私は最後まで自転車の民だった)。商業施設といったらショッピングモールか道路沿いの店舗。

 

それに対して東京に住む人は駅近くや新宿などの繁華街の商業施設を利用していて、徒歩移動が主。まるで違う生活スタイルだ。この違いは知っている人にとってはなにをいまさらという話だが、東京や大阪などの都市部から一度も出たことのない人には案外実感が持てないことだと思う。

 

徒歩社会と車社会、都市部と郊外。人口的には後者のほうが多いはずなのだが、アニメや漫画や映画の舞台では前者が多く描かれてきた。私にとって車社会を象徴する存在がショッピングモールで、映画はまさにその点をテーマにしてくれたのでとても嬉しかった。

 

ショッピングモールの本

改めてショッピングモールについて文章を読んだり考えてみると多くの発見があった。

 

1冊目。

日本のショッピングモールについての複数の著者による社会学・都市論・建築論の論集。

ショッピングモールについての分析が進むうち、00年代以降、日本の商業施設全体がモール化していることが判明して興味深い。

たしかにいまはどこもかしこもモール的な思想で空間が構成されている。どこにいっても無印良品がありユニクロがある光景、それはモール的な均一な多様性だ。

 

2冊目。

世界各地のショッピングモールの写真集。この出版社「パイ インターナショナル」の「世界の風景」シリーズで他に橋とか家とか公園とかも出てておすすめ。

ショッピングモール起源のフランスのパサージュに始まる。一つの様式として成ったアメリカ、ド派手なドバイや中国など世界中のモールが載っている。

 

3冊目。

哲学者の東浩紀とフォトグラファーの大山顕がショッピングモールについて好き勝手に語り合う対談集。

連想ゲームで話題が広がっていく様子がおもしろい。モール性気候、ショッピングモールのエデン/オアシス説、宇宙船はショッピングモールになる説。

 

この本を読んだあとネットサーフィンをしていると、なんと『サイダーのように言葉が湧き上がる』はこの本から着想を得たとのこと。

 

監督のイシグロキョウヘイ×脚本の佐藤大×大山顕の3人でゲンロンで鼎談していた。

 


旅行できるようになったら阪急西宮ガーデンズとかキャナルシティ博多に行ってみたい。

はにわ通信 第2号「副反応なので、籠もり虫」

読者の皆様おはこんばんちは。島鉄です。

いそのくんにならって私もやってみます、はにわ通信。なので、これが私の第一回目通信ですが、はにわ通信第2号と銘打っております。

私、全力で乗っかっていく主義です。

 

◇見たものたち

最近ハマってるアニメが……とでも書こうと思ったのですけど先にいそのくんに紹介されてしまいました。

再放送します(マッドハウス様からお金を頂いているわけではありません。欲しいものですね、お金)。

 

アニメ

『Sonny Boy』です。

anime.shochiku.co.jp

いそのくんも触れていましたが、この作品には数々のアーティストが楽曲提供しているため、島鉄の好きなミツメも劇中歌で参加しているのを嬉しく思いました。

 

江口寿史キャラクターデザイン原案で、学生が学校ごと漂流する、という楳図かずお先生の漂流教室のようなとっかかりに、懐古趣味の島鉄は惹かれたわけですが、そんなものはどこかに置いてきてしまうくらい、徐々に明かされる世界の理と人間関係……が気になるストーリーとなっています。

 

学校が漂流、超能力という部分は現実ではもちろんありえません、よね。

でも、超能力でバトルするわけでもなく、与えられた超能力と元の世界での能力とのギャップに悩んだり、どこにも居場所がなく能力もない人間の苦しみ、だったり。

描かれている姿が等身大の中学生キャラクターらしいのですよね。

若い頃の一種の万能感は、まさしく超能力を持ってセカイを変えようとする(できると信じる)ようなもので、成人社会に入ると徐々にそれが否定され不可能だと悟る……そんな風な気分になります。

 

そして居場所、依存、自由……。各キャラクターの求めるものがおぼろげながら分かってきて各々の行動原理や共闘できない理由も分かってくるのが、楽しいです。私って関係性が好きなのだなぁ。

いそのくんと同じく、この作品は「瞳」、「眼の強さ=そのキャラクターの意思」が印象的でどうも心惹かれるんですよね。  

あと関係ないですが、『ストップ!ひばりくんスーパーエディション』買いました。近々このことも載せるやもしれません。

アマプラで読んだなー、なんて思っていて、スーパーエディションに未発表稿が収録されていることを知らずにスルーしてました。

はよ届いて〜〜!

 

えぇ、長くなるのでここまで。

次です。

 

映画

東京オリンピック2017都営霞ヶ丘アパート』

映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』公式サイト

 

関東での上映はほぼ終わっていますが、千葉県で9月25日より2週間ほど上映予定です。

 

普段それほど映画は見ないのですが、団地好きとして、スワローズファン(霞ヶ丘アパートは神宮球場にほど近いので)として、そしてオリンピックに対する何かモヤモヤした思いに対して、気になったので某小劇場にて視聴しました。

 

1964東京オリンピックでも行われた蝟集する木造建築物のクリアランスと、その後に建設された鉄筋コンクリートで建てられた霞ヶ丘アパート。

しかし2020東京オリンピックで、その霞ヶ丘アパートも取り壊されてしまいます。

 

古びた外観から霞ヶ丘アパートのことは「汚い、古い」と都知事から言われ、私も団地好きながら「古いだけあって老朽化が目立つな……」とは思っていました。

1964オリンピックで壊された木造建築物も「汚い、国際的に恥ずかしい」と称されていたことに住民は「2度もここは汚いと言われているんですよ」、と話していた。

それはあまりに切ない。ここの住民はほとんどが老いた弱き人たちだった。

 

2月の真冬に追い出されてしまうまで、たしかにそこで小さな営みがあったことをこの映画は淡々と記しています。

 

政治的なことから、オリンピックには賛否の声もありますし、オリンピックに伴うスラムクリアランスはリオデジャネイロでもありました。

www.huffingtonpost.jp

もちろん霞ヶ丘アパートの住民たちは代わりの住宅をあてがわれています。しかし、年老いてからの引っ越し・環境の変化を考えると、本当にそれだけでよいのか?

住居移動後のケア体制についても考えなければいけないのではないか、と思わされます。建物はいつか古くなり壊されます。そして生活もともに壊されます。

 

終の棲家とはなにか、大きな力によって流されてしまうことがある、老いても協力して小さな営みを送っていく大切さ……そのことをこの映画は伝えています。

 

 

◇買って便利だと思ったもの

サンワサプライの、リストレスト

これがあるだけで腕がすごく楽です。

しかも取り外しは簡単。

item.rakuten.co.jp(楽天カードマンにお世話になっているので、たまには楽天でリンク。ちなみに私はAmazonで買いました)

 

折りたたみデスク(ニトリ製)を普段使っているのですが、引っ掛けるだけで大丈夫かな……なんて不安もよそに大活躍中。

 

……実は先にいそのくんが購入したので不具合も特に報告聞かないし自分も買おーっと、なんて思い立って買いました。

先に『Sonny Boy』を紹介されたので、反撃(なにが?)。

 

あと、感想はここに綴りませんが、『平穏世代の韋駄天たち』も見ました。シリーズ構成・脚本が『キルラキル』の脚本の人なんですね。なんとなく既視感。

色使いがカラフルで面白いです。ピンクの影とか。2話まで見たよ!いそのくん!!(なんの報告?)師匠って強いんだなあ。

 

◇小説(駄文)を書き始めました。

小学生の頃から漫画が好きで、それでいて恥ずかしがりやなので友人にしか見せていませんでした。このブログがギリギリ知らない人に自分の何かを発信する唯一の場所でしょうか。

時間があまりある、高校時代。部活動にも入らず(だって文化部の部屋が大教室をブースで区分けしたお粗末なもので、一部活に対して四畳半くらいのスペースしかなかったんだもの。あんな冷遇されてるのはおかしいと思う)、漫画を描いて現実から全力で逃走していました。

しかし、3年間でペン入れもそこそこに8話くらいしか描けてませんでした。

根本的に絵も下手だし筆が遅いんでしょうね。

ストーリー自体はある程度思いつくのですが、絵にできない。それもそのはず漫画も映画も数えるほどしか見ていないのですから、自分の形にしようがないんですね。

 

つい最近気が付きました。

小説……と呼んでいいかはともかく、挿絵と写真付きでストーリーだけでも載せればなんとかなるのでは?

あとは駄文を公開して後悔しないかどうか、ってだけです(すでにこのダジャレを載せたことに朝気づき後悔しています。あと青梅の無人駅の自販機でコーヒーを買っておきながら、20分も待ち時間があるのに取るのを忘れたあげく、反対方向の電車に思わず乗ってしまったことも、かなり後悔しています)。

 

皆さん見て(読んでとはあえて言いません)くれましたか?

そうですか、それはそれは……。うん。はい。

 

◇どーでもいい話

最近100均で「2000-2006ヒットチャート」みたいな商品が売られており、辻仁成の『ZOO』が収録されていたので思わず買いそうになりました。

ドライブ中にブックオフに寄ってL'ArcとGLAYのCD(個人的には+ジュディマリ)をわざわざ買い漁る手間が省けて便利ですよね。

 

でも、ドライブ用に自作のベストカセットテープやらCDを作る時間(凝ってる人はジャケットまで再現したり……)って楽しいんですよねー。ドライブはそこの時間しか楽しくない。運転中はいつ誰を轢くか分からなくて怖いんだもの。

何の話でしたっけ?

 

GLAY / Winter, again - YouTube 

いつか二人で行きたいね、雪が止む頃に(雪道怖いし、スタッドレスタイヤがどういう原理で滑りにくいのか未だに理解していないから)。

 

 

夜ふかしの好きなフクロウ、島鉄からはにわ通信をお送りしました。

しーゆーねくすたーいむ。

 

www.youtube.com