

ここは愛知県豊田市。
写真は名鉄豊田市駅のまわりの風景です。初めて訪れました。
名古屋の都心部から地下鉄鶴舞線に乗ると、途中から相互乗り入れで名鉄豊田線になり、豊田市駅まで一本で行くことができます。だいたい50分くらい。


今回のお目当ては豊田市美術館です。
美術館の建築がよいと噂を耳にして、あと展示を調べるとおもしろそうだったので来ちゃいました。
The郊外(←この言い回しなんなんでしょうね)という感のある道をしばらく歩きます。
見えている高架は愛知環状鉄道線(第三セクターなんですね)のもの。

案内板にしたがって進みます。
建物がなかなか現れないので、なんだか心細くなってきます。

ほんとうに?

急な坂を登っていきます。


あ!

ありました。坂の上だったんですね。
それほど大きくはない?という印象を受けます。


中に入っていきます。
チケットを買って廊下を歩いていると、窓から光が差し込んで床に影を落としています。
なんでもない光景なのですが、その美しさに足が止まりました。

館内は外から見たよりも広いようで、窓の外には庭が広がっています。
「しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム」
www.museum.toyota.aichi.jp
さっそく1つめの展覧会「しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム」を観ます。
今回テーマとなっているアナキズムは、過激な無政府の思想というよりも、統治の否定/抵抗、個々の自律/全体の調和という理念です。
こちらはコーポ北加賀屋(adanda + contact Gonzo + dot architects + remo + FabLab Kitakagaya + 102木工所 + REUNION STUDIO)の作品。


コーポ北加賀屋は大阪市住之江区にある協働スタジオ。7つの異なる組織グループによって分有運営されているそう。大阪の自宅から近いので行ってみたいな。
展示はコーポの営みの再現という趣きで、作ったもの、メンバーの書いたもの、読んだものが並んでいました。シェアハウス、共同生活をしてみたくなります。
続いては、大木裕之の作品。
床に雑然と物が並べられて(落ちて)います。

LAWSONのレシートって作品になるんだ…!

トヨタの「ウーブン・シティ」や電車好きの藤井聡太くんが紙面を飾る中日新聞

この透明なパネルの奥で映像が流れていました
パネルにレシートが貼られていて、近づいてよく見てみると「中華料理九龍城 ¥2189」の領収書でした。オノ・ヨーコの「Ceiling Painting」(YESって書いてあるやつ)を思い出しました。

落書きのような箴言のような絶妙な塩梅

呪術廻戦28巻やはがきやDVD

たぶんLAWSONで買った水と酒
暮らしがそのまま作品になっているようですが、実際に本人が展覧会期間中にしばらく滞在していたようです。まさしく領域展開です。
最後にロシアの「集団行為」。
壁に20個ほどの展示パネルがあります。

「集団行為」はソ連時代の1976年に始まり、集まった参加者たちが繰り広げるものです。野原や山で人々が集まり、決められた動作(アクション)をして、解散する様子が作品として記録されています。
封筒を開けてなかの絵を重ねたり、穴に横たわってから出現したりと、アクションはどれも目的がよくわからないナンセンスなものばかりです。
しかしその様子は楽しそうで(写真は淡々とやってるかんじですが)、子供のころの遊びを思い出しました。
展示会場を出て、展覧会のタイトルの「しないでおく、こと」という言葉がいまいちわからなかったので、美術館の売店で売っていたアガンベン(イタリアの哲学者)の本を買って読んでみました。「創造行為とは何か」という章で以下のように書いています。

真に人間的な実践とは、人間という生きものに固有のものである諸々の働きや機能を働かなくさせることによって、それらをいわば空転させ、可能性へと開いてやることなのだ。
(ジョルジョ・アガンベン、岡田温司・中村魁 訳『創造とアナーキー 資本主義宗教の時代における作品』月曜社、2022年、pp.64-65)
アガンベンさんの言葉はむずかしいのですが、生物学的・社会的な定め(たとえば働きなさいとか)にしたがわず、しないでおくこと(また、あえて無為なことをすること)にも価値があるよ、遊びやなにもしないことは意外と大事だよという意味で解しました。
そう考えるとこのブログにも可能性があるという気がしてきます。
階段を上がると、見渡しのよい広場が開けています。
こんなに立体的な広がりのある建築だったとは!気持ちが上がります。
やわらかい冬の光。美しい色の石の床。

アルミの屋根の回廊。端正な印象はその薄さのためでしょうか。

影がきれい。張られた水が光り輝く。

2Fから1Fを望む。奥の森から挙母城へつながっている。
高低差のある丘に美術館が建てられていたことがわかります。
初めに1Fで見た窓から差し込む光はこの高低差のおかげで遮るものがないからだったようです。
2Fからは美術館の奥の豊田市博物館(2024年オープン)まで歩いていけるようになっています。これは楽しい!


豊田市博物館



カフェでコーヒーとサンドイッチをいただきました
今回は博物館の外観だけで展示は観ることができませんでしたが、ぜひまた来たいです。
博物館の方から美術館へ帰ってきて、美術館を改めて眺めます。

美しい。
カクっとした建物と回廊が、水に反射してゆらめく幽玄さ。移ろう光で一瞬ごとに表情が変わるのでいつまでも眺めていられます。
さて、それではもうひとつの展覧会を観に行きましょう。
「玉山拓郎:FLOOR」
www.museum.toyota.aichi.jp
この展覧会では、美術館の空間全体を使った、彫刻とも建築ともつかない巨大な「なにか」を展示(展示といってよい?)しています。2Fから3Fまでの展示室にこれ1つだけ。その潔さ、コンセプトのおもしろさにワクワクします。

大きすぎてカメラの画角に収まらない

吹き抜けにも収まらない
大きすぎるものっておもしろいです。
圧倒的なものに対して抱く感情。カントが崇高と呼んだらしいもの。名鉄百貨店のナナちゃん。栄に建設中のザ・ランドマーク名古屋栄・・・

こういう展示室の使い方、ありなんだ。

突き抜けてます

小学生のころ使っていたカドケシ、イケアで来客用に買った硬いマットレスを思い出します
人も展示物もない、非現実的で、夢のなかのような光景は、リミナルスペースといえるでしょう*1。

詳しい説明はリンクにお任せします。
fnmnl.tv


巨大ななにかをくぐったとき、子どもの頃を思い出しました(今日はそういう気分によくなる日です)。
くぐること、屋外の芝生とかで寝っ転がってみること。大人になってあまりしなくなるそういった行為ってたまにやってみると楽しいなと思います。
街の埋物
そろそろ美術館を後にします。
来たときと光のかんじが違っていてそれもまた味があります。



さてあとは名鉄豊田市駅まで帰るわけですが、その道すがら、思わず足が止まりました。

なんか、ENEOSの建物が美術館の回廊と似てる気がする…!
具体的には薄い屋根と細い柱が。
こんなこと書くと谷口吉生の名建築と比べるなんてと怒られるかもしれませんが、ほんとに似てますよね!?
地元の人が美術館の建築からインスパイアされたと想像するとほっこりしませんか?地元から愛されているようで。あ、やめて、製図用シャーペンで刺さないで…!
そして、またも足が止まります。

これ、「玉山拓郎:FLOOR」の「なにか」っぽくありません?
川(水路?)の上に倉庫かなにかでしょうか、不安なバランスで、覆いかぶさるように造られています。
なんか観てきた展示を思い起こさせるような街並みです。
美術館に行った後の街歩きって特別な気分に浸れてぼくは好きです。
最後にこちら。
VITS豊田タウンという商業施設ですが、目立つところに配管がめぐっていたり、壁のデザインが多様だったりとやたらに目をひきます。

調べてみると、1969年オープンとのことでけっこう古い建築のようでした。
あまり情報がありませんが、以下の記事で比較的詳しく紹介されていました。
syouwasc.blog.fc2.com
美術館で感動したあと、街でも発見があって楽しい日でした。
このブログのコンセプトの「埋物」をちゃんと見つけられて大満足です。
それでは!