埋物の庭

埋物の庭

街中にあるつい見落とされがちで埋もれてしまっているもの(=埋物、まいぶつ)を紹介します。

【小説】さんぽ・まち・かんさい――ウラ天王寺に朝がきた

どんなに推敲してもアホほど長くなってしまい、分割すると街歩きは?となる二重苦に頭を抱えていましたが、めんどくさくなったのでそのまま載せます。

文章力のある人って、きっと無駄な文を削るのがうまい人なんだと思います。

読んでくれている方に感謝です。

(↓前回の話)

my-butsu.hatenablog.com

(一話から)

【小説】さんぽ・まち・かんさい――松屋町にて - 埋物の庭

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「うげー、なんかわからんけどまっすぐ歩けてへん気ィするわ」

「ひゃひゃっ、めっちゃヨッパライやないですか、痛っ!なにこれジャンボサボテンの鉢多すぎるわこのマンション」

 

 ……地獄でなぜ悪い、と誰かが歌っていた気がするけど悪いよ、助けてよ。

あーあ、すべてが思い通りにならない。困ったさんが二人、そのお守りを一人でする。

これって新入部員のやることなのだろうか??いや自分は入部するとも言ってない。

ぼんやりと1次会の様子を思い出す。

 

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「あの、このサークルホントに入るんですか?」
「う……悩み中、かな」
あがり症で愛媛から上阪したばかりの千代ちゃんとは、なんだかんだ大阪なんもわからんという唯一の共通点から、すぐに打ち解けられた。

 

ただ、このサークルに入るかどうかは別問題だ。会長があれじゃ……。ちらり、と横を見ると会長は熱くK大愛について語っていた。

正直、会長と会って数時間なのに、あまりにインパクト大のため入部するか保留したい。

現に隣でK大校歌を熱唱して副会長にしばかれているし。

「私、このへんに知り合いおらんし、友達も学外でほぼ会わんし悩んでるんです」
そもそも友達らしい友達のいない自分は大丈夫なのか……。

「ボクも地元は奈良やし、小中高とずーっとおんなじとこ通ってん。せやから友達はまだおれへんよ。別に心配せんでもええと思うわ」
周はそう言って、ここのサークルで友達は作れるやろうし、と小さな声で付け加えた。

たしかにそうかもしれない。しかし、こんな変な会長に付き合って街を歩いてどうなるのか。
四年間を怠惰に過ごすだけではないか。それならばもっと青春を!学問を!極めた方がよいにちがいない。

脳裏に夕陽丘から見えた景色とあべのハルカスでの眼下に広がる大阪平野の風景が浮かぶ。
それなりに綺麗だった。
でも、サークルにわざわざ入らなくてもいいかもしれない。
周とは会う機会がこれからもあるわけだし。そのときに道案内してもらえばよいのだ。

無理して入って辞めにくくなるくらいなら、いっそのこと入部しないほうがいい。
申し訳ないけど、会長にそう言おう。

そんな提案をしたところ、周は眉を八の字にして(イヤ、世の中には本当に考えがはっきり表情に顕れる人種が実在するものなのだ)、言いにくいやろうからボクが会長に言うてくるわ、と残念そうな表情でポツリと呟いた。

「あの、会長、お楽しみのとこ悪いんですけど……」

「んー?なんや周クン、改まってェ。あれやろ、お会計の傾斜のことやろ。ここは大目に払うから心配せんでもええよ」

「い、いや入部の件でですね……。ちょっと席外してもろうてもよろしいですか?」

「ハ。かまへんよ」

副部長は一人うるさいのが減って安心したのか眉間のしわをグシグシと伸ばしている。


周が去り、残されたるは非関西人の二人。

「あ、鶴見さん(←面と向かって下の名前で呼べない男…)って学部はどこなの? 」

「私は文学部なんですけど……初等教育専修で、幼稚園教諭目指してます」

「へー。すごいねセンセイかあ。趣味とかある?」

「子供とふれあうのが好きなんで、学童クラブのボランティアしてます」

「へー!サークル以外も活動してるんだ。高校の時からそういうのやってるの?」

「あ、高校のときは生徒会と兼任で演劇部におったんですよ。演技はてんでダメで、衣装とか小道具なんかの裏方でしたけど」

……あれ?これインタビューになってない?ひょっとしてこれから撮影始まる??

千代ちゃんは、質問責めにされて気まずいのだろう、視線を逸らしそれにしても遅いですねぇ周さん、と初めて話題をこちらに振った。

 

たしかに。となりの席にいない。

「ひょっとしたら会長酔っ払って倒れてたりして」
「え!それマズいですよ!!気管に嘔吐物が詰まったら死にますよ!」
その通りだけどエグいな。

「たぶん大丈夫だよ。会長っぽい大きい声がこっちまで聞こえてくるし。ははは」
会長は行く先々でブラックリストいりしてるのでは、と不安になる。

「その、ずっと気になってたんだけど……どうして敬語なの?」
「あ……その、方言でると恥ずかしいけ、からです。はい」
「ぜんぜん!恥ずかしくないっ、と思う、けどなあ……」

尻すぼみに自信がなくなるのが自分の悪いところだ。

ただ、そのおかげで「方言可愛いじゃん」とか言って顰蹙を買わずに済んだのだからよかったのだ。そうに違いない。

 

 「ごめん、コーくん。会長に入部しない話したんやけど……。次の会合で一日体験してから決めてほしい、って言われてもーたわ」

周は申し訳なさそうに言うと、次の会合もボク出るし気持ち変わったら教えてな、今日は騙し討ちみたいな誘い方してカンニン、とつなげた。

たしかに、よくよく考えてみると新入部員の面談があると聞いて着いていったら、ハルカスに登って居酒屋で歓迎されているのだからおかしな話もあったものだ。


 「おーい、二人ともお会計終わったから出るよ」
無慈悲にも副会長が周と千代ちゃんを呼びに来た。これから自分はヨッパライ二人の相手をしないといけないのか……、いやそもそもナゼこんなことになったのか。
入部に消極的な人間がナゼ新入部員歓迎会2次会に出席するのか……。

このとき3杯目のビールとともに諸々の疑問を飲み干していなかったら、別の学生生活があったのかもしれない。
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「なんやさくらちゃんメッチャ赤い顔して〜、なんぼなんでも飲みすぎやぞ!」
……会長、それはポストです。飲み過ぎなのはあなたです。

「分かってるて!冗談やて〜、にしても顔色悪いなァ神路くんはァ」
……お地蔵さんに話しかけてはる。
ツッコミ待ちなのか完全に酔ってるのか分かりかねるので無視して、明らかに蛇行しているさくらセンパイを呼び止める。

 「なにィ、気安く触らんといてぇ」
できれば触らぬ神に祟りなし、がよいのだけど側溝に速攻で落ちそうな人を見て腕をとらないわけにはいかない。

すいません、でもこのままだと溝に落ちるか電柱に頭ぶつけますよ、センパイ。
「はぁ、そか。ありがとぉ」
そう言うとさくらセンパイは、グイと自分の腕を引っ張ると全体重を預けてきた。
「ちょ、お、重い。重いですってセンパイ」
 

「アホぉ!女の子ぉに向かって重いゆーたらアカンやろぉ」
自分で女の子って……。紛れもない女の子だけど。
「すいません、センパイは軽い“女の子”だと思いますけど、たださすがにこう支えきれないといいますか……」

 「誰が軽い女やねんな!ウチこー見えてもメチャ重いねん、引きずんねん……」
以下、怒涛の中高付き合ったカレシ列伝が続くも紙面の都合上省略。

小3の1か月半、お手々つないで登下校してたマーくんから始まり、バイト先の店長*1まで総勢7名。
 
……日本語ってムズカシイですね。そして動けない。かといっておんぶするわけにもいかない。反復横跳びの如く、電柱とブロック塀に並ぶ「立ち小便禁止」の貼り紙を1枚ずつ激写している会長はまだ動けそうだった。

 

「会長、さくらセンパイ運ぶの手伝ってくれませんか?」

「ええよ~。この小便すなfeat鳥居の写真撮ったらな~」

ここにはマイペースな人間しかいないのか。絶望した。

 

 住宅街なのか飲食店街なのか分からない区画を抜けるといつのまにかJR天王寺駅側にでていた。ここから地下鉄に乗れば10分ほどでアパートに帰れる。

しかし、こっち側に来たことなかったな。

タクシープールの向こう側には広大な芝生が広がり、通天閣が独特のネオンを街に放っていた。天王寺駅前通り、の簡素なアーケードが見える。

 

 さくらセンパイの右腕を肩にかけ、会長が左腕を肩にかける。三人が横並びで歩くとヒジョーに邪魔くさいが、仕方ない。もう今日は帰った方がよいのではないか、と思うも当の本人であるさくらセンパイは「夜風を浴びればまっすぐ歩ける」と頑なに帰ろうとしないので、仕方ない。

 

  あっこ、「てんしば」なんて言うてBBQ場やら芝生広場やら家族連れが集まるエリアになってるけど10年前までひどいもんやったワ。

信号待ちをしている間、会長が独り言なのか分からないくらいの声量でポツリとこぼした。

会長の二重顎でしゃくる方向をみるとたしかに「てんしば」と広大な芝生の上にモニュメントが建っている。

 

そういや記憶もおぼろげながら、動物園行きたい!と祖父に懇願して周と連れて行ってもらった時、ブルーシートのテントが建ち並んでいたっけ。

「もっと酷いときは勝手にカラオケ大会開いてて笑ったわ。アレどっから電源引いてたんやろな」

「電灯とか公園は結構ありますし、そっからじゃないですか?」

「ッハハ!神路くんスゴイな、その発想。さすがにそれはアカンやろ。誰かが発電機持ってきはったらしいわ」

……それもどうかと思う。

 

 あ、ごめんな。唐突に会長に謝られてふと顔をあげる。

「なんか、そういう滅茶苦茶な人見ると俺も負けられへん!てなってな。飛田新地もそうやけど、逞しい人がすっきゃねん。弱いからなァ、俺」

「あの、自分は会長のこと逞しく見えるんですけど」

「えー、自分そんな風に俺のこと見えてんの~?虚勢張ってるだけやわ、俺は」

会長は努力する方向を間違えているだけなのかもしれない。

道端に積んである空き缶の山を蹴散らし慌てふためいている会長を横目にそう思った。

……いやただの破滅型のヒトかも。

 

「せやから、いちびって*2王道の観光地よりヘンなとこ行きたなんねんな」

そんで副会長からまともな“観光案内”せえ言われんねん、と乾いた笑いをこぼしながらも全く懲りてない表情の会長だった。

「ダークツーリズム」っていま流行ってるらしいですし、いいと思いますよ、とフォローを入れる。綺麗な景色に雄々しい伝説、それだけが伝えられるのは何だかわからないけれど違う気がする。負の遺産や一見汚くみえるものも残していく必要はあるはずだ。

 

「ありがとうな、神路くんエエ男やわ。公式イケダンディズムや」

「いや、会長こそ池の水全部抜くダンディーですよ」

「へへへ」「ふふふ」

「「あーはっはっは」」

 

 「やかましい!!!」

頸部を圧迫されたことにより「「ヒュッ」」と喉笛が鳴り、会長と自分の馬鹿笑いはアベチカ前の謎空間に響き渡ることはなかった。そういえば、さくらセンパイは二人の首を絞めることが可能な状態だった。

どうやらスリープモードだったさくらセンパイの目が完全に覚め、会話が嚙み合ってないが声はデカい二人にイライラしていたそうな。まあ耳元で騒がれたら誰でもそうなるか。

「さくらちゃん、次から首絞める時は予告してな、いきなりやられるとビビるから」

何をお願いしているんだ、この人は。

「もう歩けるんで、いいですよ。ありがとうございました。まだアベノなんですか?」

「さすがに難波まで行かれへんやろ思てな」

時刻は21時半。大阪の地下鉄の終電は早く、油断すると駅前で途方に暮れることになる。

実際に大阪の通勤・通学・観光に欠かせない地下鉄御堂筋線天王寺→梅田(大阪)の終電は00時03分だ。

 

「せやったら種よし行きましょーよ」

「空いてるかなァ、あそこ。ギチギチやと思うで」

「なら、酔虎伝!」

「わざわざ阪和商店街行くのに酔虎伝入らんでもええやんか」

 

「あの、どんなとこなんですか?阪和商店街って。商店街の中に飲み屋があるとか??」

東京で言うと赤羽みたいな感じかな。

「んー。一言でいうとやな、キューズモールとかきれいやんか。アレのできる前の商店街とよく似てる、地元土着臭あふれる古き良き酒場の集う街㏌アベノ愛称ウラ天王寺……てとこやな」

一言の情報量が多すぎる。

 

 ウラ天王寺というにはあまりに天王寺駅に近いが、阪和商店街はボロボロのアーケードの屋根、外にあるトイレ、細い路地……という戦後のゴタゴタが色濃く残るところで、空間よりも時間的な距離のある意味で“ウラ”なのだった。

(この数か月後に知ることとなる、ウラなんばは南海難波駅より南で位置的に“ウラ”だった)

 

阪和商店街の店はどこも繁盛しており、できあがった人々でごった返していた。なんなら入店を待つ間にコンビニで買った缶チューハイを飲み歓談している人もいるくらいだ。

さくらセンパイが話していた「種よし」も御多分に漏れず満員で、途方に暮れる飲んだくれ3人衆。

ほな、いつものトコ入るか。そう言い放つと会長はいま来た道を戻り、それなりに客を収容できそうな店に足を進めたのだった。

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 「我々は誇り立つK大精神を失ってはならん!!」

掘りごたつのあるお店っていいよねー、とさくらセンパイが話を振ったはずなのになぜか会長は再びK大の誇りを取り戻す路線の話を始めてしまった。

 

 「あ、去年は大阪城いったんやけどぉ、あそこらへんって外国人観光客めっちゃ多くてホンマに観光案内したことあんねん。抹茶ソフト紹介したらお礼言われたわ」

「海外のヒトって抹茶好きですよね。あれなんでなんでしょうねえ」

「緑で目に優しいから*3やない、知らんけど」

会長は引き続きKKDR(関西有名私大の序列)について熱く語っている。少しでも反応すると厄介そうなので完全に無視を決め込み、このサークルが入部に値するかどうかさくらセンパイに去年の活動実績について聞いてみた。

 

「まあ、ウチも正式に入ったんは去年の11月からやからその前まで何やってたんかは知らんけど、今年の2月なんかはユニバ行ったわ」

「ええ?!飛田新地とかじゃないんですか!?!」

我ながら滅茶苦茶な反応である。

「ま、あそこもある意味テーマパークやけど……。会長が旧桜島駅?の跡見に行くからユニバ行くぞー、て話してて便乗してん」

 

巨大工場群からUSJへ

そうか、そういう方法で観光地にいくこともできるのか。

 

「結局、会長放置してたら寂しなったんか午後はみんなでアメージング・アドベンチャーとかで遊んでたんやけど」

www.usj.co.jp

さくらセンパイはそう言って効果音付きで手から蜘蛛の糸を飛ばす仕草をみせた。USJ行ったことないな。

しかし、ただ遊んでいるだけで部費の申請は通るのだろうか。

 

「ん~。ま、そこらへんは会長が勝手にテーマ作って、副会長が文面整えてぇ、最後は渉外のソーやん……あ、岸里クンが掛け合ってくれるからなんとかなってん」

あれ……ってことは、さくらセンパイはなにもやってないのでは……。

 

「去年はまだ入ったばっかやしぃ、しゃーないやん。でもこれでわかったやろ?案外どこでも行けんねん。会長企画のときはヘンなトコ連れてかれるから要注意やけど」

 

 そんな風に会長をくさしている横で、会話の輪から除かれていることをまったく気にしてないのか、会長は関西私大の雄であるD大を滅茶苦茶にくさしていた。

 

「せやからアカンねん、あそこは。お高くとまってるボンボン大学や。K大はバンカラ精神のある大学や。K学院大は名前が被ってるし、あそこもボンボンや。アカン。えー、R大……ここは遠いわ、キャンパスが。うん。しかもなんか茨木*4にキャンパス作るらしいやんか。許されへん。領域侵犯やろ」

ぇ……無視されてるからか、めちゃくちゃ*5言ってる……。

 

 すると、さくらセンパイはほぼ空になったハイボールのグラスをカラカラと鳴らしながら何も言えなかった自分の代わりに反論した。

「まあ、神戸大行く言うて玉砕した挙句、一浪して神戸大と同じ三商大やし大阪愛がある、とか理由つけて市立大受けて落ちて、二浪して裕福でない家庭のために国公立はあるから、ってK大の夜学以外全部落ちた人は何言ってもアカンと思いますけどねぇ~」

 

「ちゃうねん、さくらちゃん、あれはワザと落ちてん。前期試験のときメッチャ腹いたかってん。せやから次の年は正露丸飲んで試験受けたら間違えて睡眠導入剤のんでもーて試験の最中なんに寝てもーて……」

「あれ、去年はストッパとコーラック交互に飲んだらコーラックが勝ってトイレに籠城した挙句タイムアップした、って話してませんでしたぁ?」

「去年は去年、今はいまや」

 

ああ、一浪して縁のないK大へ進学した自分には耳が痛い話だ。

それにつけても会長のハートは強すぎる。

 

「しかしやな、神路くん。キミはなんでまた東京モンなんにK大受けたん?やっぱりバンカラな気風に憧れて、周クンも志望してるし受けたとか?」

 

さっきまでK大愛を語っていた人に「H政大落ちて一浪している以上、日本を代表する名前の大学か、ここしか受かったとこないし入学するしかなくて……」

とは言えない。勢いをつけるため大阪発祥(らしい)ガリサワーを一気に飲み干し、この混沌とした社会を安全に生きのびるための学部がK大しかないからです!!

とまったくもって真っ赤であり、大ぼら吹きの嘘八百なデタラメを高らかに宣言したのであった。

ちなみにこのいかにもたこにも灰撒くような狂言的なマンパチ宣言は4年後の就職活動にて大いに役立ったことをここに付記しておく。

 

この空言を聞いた会長がなんしか*6K大を肯定してくれた、と喜んだのは当然であった(さくらセンパイはすかさずお花を摘みにその場から立ち去った)。

「神路くん!!君はこのKKKKに入るべきや。なぜなら関西を代表する大学の関西を案内するこのサークルは関西の中の関西、キング・オブ・カンサイ。社会の安全を考えるちゅうのはここでしか学べへん。そしてこのサークルしか関西一円を深く知り、その足で学び共有できひんのは言わずもがなや。な、キミの入学目的とこのサークルの理念は一致してんねん」

 

違うか?と語りかける会長に「違います」、とは言えず同じ方向を向いてる気はしますね、と曖昧模糊に答えるほかなかった。

「来週も活動に来てくれるかな?」

いいとも、と言わざるをえない聞き方。

 

「前向きに検討いたします!!」

元気よくしゃべればなんとかなる言い方。

 

 結果として自分は、このサークルに対する不安(というか会長に対する不安)はさくらセンパイのユニバの話で薄まり、会長も時おり発作的にK大について演説するけど、無視すればいい、とアルコールにより頭が回ってない状態で「入部」の判断を下したのであった。

 

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 阪和商店街は朝も夜も関係なく薄暗いためしばらく気づかなかったが、店の人に閉店なんで……と言われ駅前まで出るとすっかり空は白んでいた。

どうやらイカニモ大学生らしい“オール”という行為を成し遂げてしまったようだ。

 

「ほな、これから新聞配達のバイトあるからここで帰るわ。今日はありがとうな二人とも」

「なんかすっかり酔い醒めてもーた気ぃしますね。ふあぁ……、今日は講義サボって寝よ」

……いまから風呂に入り仮眠をとって高槻の山奥へ向かうとして、果たして2限に間に合うだろうか。不可能な気がする。

「神路くん来週よろしくな~。なんしか部室に昼ごろ来てくれたらええから、詳しくは周クンに聞いてや」

寝惚け眼でうつらうつらとしていた自分は、当然首をヨコよかタテに振りやすかったので、入部しないルートはこの辺で消えていた。そう、このときは帰って何時間眠れるか計算していたので深く考えてなかったのだった。

 

 かくしてアベノ界隈で過ごした、大学入学以来最も濃い一日が終わりを告げた。

 にしても散歩、どこ行くんだろ。そもそも部室ってあったっけ。周からその辺一切聞いてないな。

地下鉄に揺られながらそう考えていたはずが、気づいたらアパートの床に臥せっていたのが人生の不思議なところである。

あ、領収書が落ちてる。¥9,800也。財布の一万円札がいつの間にか千円札になっていた。

?????

 

 領収書の裏面にさくらセンパイからのメッセージが書かれていた。

「立て替えありがとぉ♡来週の会合で会長が返すらしいから忘れずにね~」

あ……?人質とられてんじゃん。

 これはもう部室に行くしかない。朝シャワーを終え、鏡を見ると覚悟を決めた男の顔になった自分がいた。

おもむろにカーテンを開け、まぶしい陽ざしを浴びて大きく深呼吸をする。気持ちの良い朝だ。

いや、南向きの窓から思い切り陽ざしが入ってくるのはおかしいな、と時計を見ると正午だ。

 

そう気づいた自分は、にわかにカーテンを閉め、仄暗いベッドに滑り込み小さく丸まって二度寝を決め込んだのであった。

これが大学生活初の自主休講であった。

 

よい子のみんなはキチンと朝起きて大学に行こうね!!

 

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・阪和商店街(ウラ天王寺

再開発ですっかり綺麗になったキタ・ミナミの繁華街と異なり、未だに戦後のゴタゴタ感を色濃く残しているのがこのゾーン。

闇市が元になったという商店街ですが、アベノ再開発は着々と進んでおり、道を外れると謎のコインパーキングがあったりするので、いつかは小綺麗なエリアになるのでしょうが……。

今はなき、あべの銀座商店街の幻影を見られる貴重な一帯はウラ天王寺とも称され、呑兵衛の憩いの場になっています。

ただ、激混み……。いそのくんと18時くらいから飲んでたのですが、1時間程度でごったがえしてました。

 

東京でたとえるなら思い出横丁(立地的に)や新宿ゴールデン街(密度的に)でしょうか。

酔虎伝などチェーン店も出店していますし、昭和レトロな雰囲気だけ味わうことも可能。

若者向け(?)な店で言うと「スタンドそのだ」なんかも出店していますよ~!

 

次回こそアベノから出ます……。

*1:二股かけてたクズ。人として許されへん、とのこと

*2:調子乗って

*3:緑のワサビを甘いと勘違いして酷い目に遭う、という嘘か真か分からない話を聞いたことがあります

*4:茨城県ではなく大阪市北部の茨木市のことですね

*5:たしかに関西は国公立大学が多く、裕福な家庭でないと私大には進学できないと思われるが、それはK大にも言えることではないか。だいたいK大を受ける人は圧倒的に大阪の人が多いのだから京都や兵庫にある私大と競合している気もしない。そしてR大のキャンパスはたしかにD大の上京区にあるキャンパスと比べると遠いのだけど、それを言うと社会安全学部のK大生たる自分は高槻の山奥に通っているわけで難癖にもほどがある、とその場で言えなかったのが悔やまれる。

*6:とにかく