埋物の庭

埋物の庭

街中にあるつい見落とされがちで埋もれてしまっているもの(=埋物、まいぶつ)を紹介します。

【小説】さんぽ・まち・かんさい――決起さかんなお年頃

1万アクセス近い、とゆー話をいそのくんから聞いたので写真もなし、絵も描いてませんがアップします。許してつかあさい(?)

my-butsu.hatenablog.com

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ここは大阪南の玄関口、天王寺駅からほど近い新宿ごちそうビルの地下にある某居酒屋。

ようやく腰を落ち着けることができた、とのんきなことを放つ男性陣に対して、待ちぼうけを食らっていた女性陣はややオカンムリ……というか主に副会長が会長に対して怒りをぶつけている、といった方が正しいか。

17時にアベノ集合、という話があれよあれよとズレこみ、時刻は19時近くとなっていた。

 

「自分から今日は、はよ集まる言うてたのに、集まるの遅いわ!!」

またもや会長がなじられている。

遅すぎてスマン、とどこか誠意の見えない謝罪をしている会長と、眉間にしわを寄せ睨む副会長。

 「女の子に会えるで~」という楽し気な雰囲気は全くなく(ついでに新入生を歓迎する雰囲気もなさそうだった)、会長が吊るし上げられ、総括されるのを見守る会という様子だ。

 

四人掛けの席二つが並び、真ん中から時計回りに会長、副会長、自分、新入女子部員第1号、周、空席、岸里センパイ……そして岸里センパイの隣には、大きなパステルピンクのシュシュで髪を束ねている(サイドポニーというやつだろうか)、何だかこのサークルには不釣り合いなセンパイが座っていた。

 

何も知らない人からすると右と左の席が同じ団体所属なのか、判別がつかないに違いない。

左側は華やか大学生のオーラ漂う男女に、ハルカスのテンション冷めやらぬ周がきゃいきゃい話している。

一方、自分の座る右側の席には副会長に絶賛吊るし上げられ中の会長。

そして呆然と見つめるモジャモジャ頭と、「借りてきた猫」という表現がぴったりの新入女子部員1号2人が、お通夜のような雰囲気で伏し目がちに飲み物をストローですすっていたからだ。

 

 「まあお説教はそのくらいにして、とりあえず乾杯しません?」

副会長は、まだ自己紹介も終わってへんし……、と宥めすかす岸里センパイを一瞥すると

「ほな、そーしよか。オホン、ではK大・関西・勝手に・観光案内サークル(KKKK)の益々の発展と、新規入会してもらった前途ある若人の健勝を祈って……乾杯!!」

 

 「KKKK万歳!!」滑り込みで謎の合いの手を入れた会長はまた副会長に睨まれていたけど、約束の17時から大幅に遅れてようやくKKKKの決起集会、という名の新入部員歓迎会が始まったのだった。

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 えーと、あの、わたしは……。

モジモジしてなかなか始まらない新入部員紹介。

共感性羞恥、という言葉があるけれど、おそらく今自分はこの場の誰よりもそれを感じているのではないかと思えた。

自己紹介はいくつになっても恥ずかしい。とはいえ早く言ってしまえば楽になれるのに。

 

 本人が自己紹介する前から口走る会長のおかげで田舎から出てきた、という話は聞いていたけれど、こんなに引っ込み思案の子もいるんだな。

見知らぬ土地に進学する人は皆一様に積極的な性格だと思っていた(←完全に偏見)。

いや、自分も大阪が地元の人からすれば、なぜか出てきたトーキョーモン、と映るのだろうか。ああ、また恥ずかしくなってきた。

 

 なかなか自己をさらけ出してくれない新入部員1号は、ようやく「鶴見……千代て言います、よろしくお願いします」と絞り出した。ボブカットにカチューシャ、やや時代的な気もするけど、最近は大きめのカチューシャをつけた80年代風ヘアスタイルも流行ってるんだっけ。全部周の姉貴の受け売りだけど。

よれよれのパロディTシャツコーデ(どの時代でも異形と判断されること間違いナシ)の会長は大きくうなずいている。

 

 「おお~よろしくなあ千代ちゃん。出身愛媛なんやったっけ?」

会長ももう少し早い段階で彼女に何か助け舟を出してやればよかったのに。

「あ、はい松山に高校までいて……。あっ!会長さんも愛媛出身なんですか?」

「いや、全然。」

ひどすぎる。助け舟、泥船。

 

 「あ。でも縁がないわけと違うで「会長のことはどうでもええから、次に北浜くんのいとこの神路くん、よろしく」

副会長の見事なぶった切りっぷりに慄きつつ、さて何を話そうか、そもそもさっきの千代ちゃんは名前しか言ってなかったぞ……とフリーズする自分。

 

「えー(←この時点で半音外している)、神路ィ公喜と申します、この度はなぜか東京からはるばるK大に、しかも山奥のキャンパスに通うこととなり、マルチまがいの勧誘を避けつつ、気づいたらこのサークルに迷い込んでいました、もうダメです。なにとぞよろしくお願いいたしまスゥ……」

 

考えうる限りで話さなくていいことを4つほど盛り込んで挨拶してしまった。

 

「ダメじゃないよ!いいよ!!」

周、よくわからないあいさつに対するよくわからないフォローをしてくれてありがとう。

 

 スッと会長の隣に座る副会長が立ち上がった。

 「ほなら、こっちも自己紹介しよか。副会長の九条 みどりです。ここのサークルはK大の人ばかりですけど、わたしは市立大通ってます。普段は、千里のK大キャンパスになかなか行けへんけどよろしく。あ、会長とおんなじ2回生です」

 

「おんなじ、ではないやろ。こっちは2浪1溜してんねんで、いわば人生のセンパイや」

会長はこのセリフを恥ずかしげもなくスラスラ言えるからすごいと思う。

 

「アホの会長が何か言うてますけど、このサークルのええところは色んな人が自分の好きなトコに人を連れてくとこやと思います。どんどん関西の色んなところを歩いて好き、を見つけていきましょう」

副会長はスラスラと立派なことが言えてすごいなあ。

 

副会長が座る間もなく、岸里センパイの隣のセンパイが立ち上がった。

「もー、なんちゅーか、かたいわァ~副会長は。ウチは今までヒラやったけど、新しく広報担当引き継ぐ、桜川さくら言いますゥ~。あ、ウチも2回生ですゥ」

よろしく、と言わんばかりに首をかしげてニコリと笑うと、桜川センパイはそのままお手洗いへと消えていった。

 

 お手洗いへの移動速度、外れの合コンを引いた女子の如し。そんな思いが頭をよぎった。

それにしても、なぜあんな感じのセンパイがあんな感じの会長のいる、こんな感じのサークルに加入したのだろう。謎は深まるばかりだ。

 

「あの、いま席外してるから言えんねんけど、さくらちゃんなァ……その、悪い子ォではないんやけども、そのいろいろ誤解っちゅうか勘違い?させやすいタチでな。まあサークラのさくらという異名を持っているとかいないとかで、サークル流浪の民だったとこにウチに来てくれたんや」

会長がしどろもどろで話す。テキトーなことばかり言っている印象の会長がここまで言葉を選びつつ話す、ということは、さっそくトイレへと消えた桜川センパイがサークルを転々としているのは真実なのだろう。

 

「来てくれた、んやのうて呼んだんと違うんか。あそこ借りられたんも桜川のおかげやろ」

副会長が呼び捨てにしていることに驚きつつ、会長の顔を覗くと苦笑いしている。

隣の千代ちゃん(はやくも下の名前呼び)に至っては苦虫を噛み潰したような表情でうつむいている。

なるほど、桜川センパイは会長と違ったベクトルで問題を抱えているヒトなのだな。

「ま、さくらちゃんには感謝というか恩義もあるから仲ようしたってな、副会長は。評判悪いけど、見た感じそこまで悪人、って感じでもないし新入生は桜ちゃんをどんどん頼ってええねんで」

せやんな周くん、とこの場を収める要員として話を振られた周は「はあ……。まあ、ええ人ではありますよね」と何とも言えない反応をみせていた。

 

 「よし!とにかく飲むかー!!!来月からの活動予定については副会長から話があるから、よう聞いといてな」

「あ、その前に一点。自分、来月第2土曜にスタジオ貸し切りで練習はいってもーたんでムリっすわ」

「わたしもレポートあるから無理やわ、会長なんとかしてな」

 皆さん多忙なようだった。会長の人望がないわけ……ではないハズ。

 

「桜川おそいな、また終われへんエンドレスLINEしてるわ絶対」

 

いい感じに雰囲気がゴタゴタしてきた。まだ私は入部すると言っていない。周には悪いけど2次会あたりでサクッと切り上げてしまおう。このサークルのメンバーは悪い人ではなさそうだけど、濃ゆい。どうもずっといると大変なことになりそうだ。

ちらり、と周のほうを見てみる。

私はビールを2杯ほど飲んだけど、向こうは成人前だからウーロン茶をちびちび飲んでいるようだ。良かった。周が何かの間違いで酒を飲んで酔いつぶれてしまってはアパートに帰れなくなりそうだから。まだまだ大阪の地理には疎い。

とはいえ、ビール2杯くらいなら自分だって前後不覚にはならないハズだけど。

 

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「ぜーんぜん!酔ってないですって!」

上記の台詞を吐く人間の多くは正気を半分くらい失っているので、絶対に信じてはいけないと伝え聞いている。

 

「せやんなあ!!女将、芋のロックお代わりもらえますぅ?」

「ちょ、声大きいわ、少しは静かにできひんの?」

「ふくかいちょーっれえ、もォのしゅごく酒によわひから、見て!これウーロンハイ4杯目!」

「よっ!ウーロンウーマン!ウーロンクイーン!!」

「ひゃひゃ、QUEENてなんですかァそれ、もええしゃんどん飲むひとォ?くふふっ」

「ちょ……っと、二人とも声のボリューム下げへんとお店の人にも他のお客さんにも迷惑やろ、静かにしてえなあ……」

「ギアファイブ~♪」「ウーロンくふふふふっ……」

 

色々あり席を交代した結果、完全にできあがってるチームと、お会計を早々に済ませてこの地獄から逃れたいチームに分かれてしまった。

「じゃ、俺明日のバイト早いしここらで抜けるわ。今日は歓迎会来てくれてありがとうな。ほなまた」

逃げ台詞のように感謝の辞を述べると、岸里センパイはテーブルに5千円札を置いて帰路についた。

 

期せずして千代ちゃんと周とそれから自分、1回生3名が同卓を囲む形となった。

隣はベロベロの会長&桜川センパイという狂犬二匹と、それを御す副会長の卓なので一回生は避難したのであった。

 

 

 ……避難したのはいいが、お互い話すこともない。自己紹介は、だいぶ前にしてしまったことだし。

「あの、お二人は関西が地元なんですか?」

そんな話もしていなかった。いや、東京からはるばる出てきた話をしたような気もするが、山奥のキャンパスに通いつつ、マルチまがいの勧誘を受けダメになったエピソードが強すぎて記憶に残らなかったのかもしれない。

 

「いや僕は東京出身、あ東京って言っても23区じゃなくて多摩なんだけどね。となりのあま、北浜くんはいとこで奈良出身だけど!」

めちゃくちゃ早口でしゃべってしまった。恥ずかしい。もう少し酒が入っていたら、知ってた?TMNのTって多摩なんだよ、でもたまのボーカルは川口市出身で……、とか余計な情報を付け加えていただろう。危ないあぶない。

 

「へー!東京なんですか!!すごいですね、有名人にあったことあります?」

「いやあ……ジョイマン高木っぽい人に会ったことあるかも……」

「すごいな~。ウチはプレバトの夏井いつき先生くらいですよ、みかけたの」

「ええ?!羨ましい!ジョイマンてナナナナー言うてるだけの人やろ?」

ジョイマン高木に対して失礼すぎる。たしかに俳句を添削してもらう方がためにはなりそうだけど。ジョイマン高木はいきなり出てきても謝ってくれるし。ナイスガイ、違いない。

 

「どうしよう、隣はグダグダだし……このまま抜け出しちゃう?」

言ってみたいセリフランキング2位(1位は「俺のことはいいから、先へ行け!」)のセリフが思わず口をついて出る。

「あ、ごめんなさい。ウチ、いま寮住んでて門限がそろそろなんで帰ります」

「ボクも帰るわ、明日一限からやし」 

……二人ともごめんね。

 

「お、なんや帰るんかァ~?!足元気いつけてな」

一番立っちゃいけない人が他人の足元を心配している。さすがに会長の器である。

「ほな、私が駅まで送ってくわ。お会計、ここ置いとくわ。えっと周くんは生駒で、千代ちゃんは上新庄の女子寮やんな?」

 副会長が二人を送りつつ、見事にこの場を去る動きを見せた。残された3人で手を振り見送る。

……ん?3人?

 

「よし!そんなら2次会は3人で行こうやないかい!」

「さんせ~い!」

「……え?」

 

アベノの夜はまだまだ続く……。アレ?今回、街歩いてないな。

 


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・新宿ごちそうビル

アベノで店さがしに困ったら、とりあえず立ち寄る飲食店街ビル(島鉄調べ)。

地下2階から9階まで、ランチに居酒屋、スイーツまであらゆる食を楽しめるグルメの聖地と言っても過言ではない、なんと20店舗もテナントがあります(2022年4月現在)。

ごちビルともゆーらしい。ほんまに?

 

歴史は古く、なんで天王寺なのに新宿?というとJR(旧国鉄省線)と私鉄、地下鉄・チンチン電車(旧南海、現阪堺電車上町線)のターミナルが蝟集している天王寺は混雑具合が第二の新宿になるであろうと目されていたからなのでした。

今でもJRに近鉄、大阪地下鉄、阪堺電車のターミナルが連なる繁華街ですね。

www.lib.kobe-u.ac.jp

 

元々は旅館「新宿」が母体で、現在のビルになったのは1988年バブル期から。2Fにしかトイレがないとゆー驚きのつくり。しらなんだ。

 

天王寺の新宿、「新宿ごちそうビル」には何があるのか。【阿倍野区】 | こべかつ!

 

  

 

地下2Fにある「おじさん寿司」が個人的にツボです(どーゆー店名?)。

 

島鉄