いよいよ最終回です。ここまでタイムトラベルという名の年末大掃除で出てきた書物の整理をしていたら本を読みふけってしまった……そんな現象と同等の駄文を読んでくれた皆様に感謝します。ほんとです。
ここからは前回に引き続き1986年(昭和61)当時の空気感を伝える貴重(でもないか)なページをご紹介します。
6 読者投稿コーナーの存在
このガイドブックトラベルJOYには読者投稿コーナーとして「JOY FRIEND」なるページが設けられています。なにやら「いい旅している?JOY仲間のホットな情報をあなたに紹介…」だそうです。
こういうコーナーを見るとその時代の若者像が見えてきます。
写真は控えますが、読者投稿写真の若い女性、ほぼ聖子ちゃんカットです。
阿南海岸の大浜にある浮世絵美術館に行ったのです。(中略)特別室は心得のある方ならどうぞ、と言われて入り……。同行の叔父叔母を前に未熟者の私は真っ赤!ポルノみたいなんだものー。嫁入り前です、私。
ポルノという言い方も、嫁入り前というフレーズも今ではなかなか使わない気がします。秘宝館とか地方にあるちょっとエッチな展示物がある施設ってあまり見なくなってしまいましたね。エロがタブーでインターネットが普及していなかった時代の産物だからなのでしょーか。
2泊3日で高松-屋島-琴平-鳴門と旅行しました。(中略)ただうず潮は“ごう音”を立てるほどの迫力が時季が悪く、ありませんでした。(中略)高松の銘菓“母恵夢”は、すばらしいおいしさでした。
掟破りかもしれませんが四半世紀の時を越えてツッコませていただきます。
“母恵夢”は松山の銘菓です!!!!
ま、当時21歳の東京から来た観光客ですからそこらへんは仕方ないかもしれません。
いま55歳の彼女は、いまだに高松の銘菓は母恵夢だし、渦潮は宣材写真に使われているものが大きいのであって、大潮の時期でないとがっかりするということは全く知らなくて、うっかり助詞の「が」を一文で2回使ってしまう(油断するとついやっちゃいますよね)……という若さゆえの失敗をどう思っているのでしょうか。
こういうことを指摘すると30年後にこの記事が攻撃されそうなのでやめておきます。なにより編集部は投稿文を直したりしないのでしょうか。原文ママのスタイル、それもヤングの素直なセンテンスでGoodじゃない、とゆーことなのか。
一辺の旅行者、家の者というワードが、お歳を召した方だと気づかせてくれます。そうです、JOY FRIENDはヤングだけじゃあないのです。しかしながら当時68歳ということは、ご存命なら今年で102歳……。お元気でいてほしいですね。
7 まとめ
このガイドブックが発行された1986年近くは昭和末期ということもあり、戦後日本の転換期となった時代でもあります。戦前や高度経済成長期までの『旅行本』は、現代と断絶しているように思います。しかし、80年代に出版されたこのガイドブックは現代への連続性をある程度保持しているのではないでしょうか。
(まあ1986年はバブル景気の入り口、冷戦期でもあるので完全に地続きなイメージもないですが)
国外では1986年の重大事件として
・チャレンジャー号爆発(毎年続いていたスペースシャトル打ち上げがこれ以降途絶える)
・イランコントラ事件(アメリカ政界を揺るがす、レーガン政権最大スキャンダル)
国内では1986年付近といえば
・85年より日本電電公社および専売公社が民営化、現在まで続く民営化・規制緩和の系譜
・間接税(消費税)導入について中曽根内閣で検討、87年に売上税法案提出
・86年末からバブル景気が始まる(実感が伴うのは87年以降)
・二公社に続き国鉄が87年民営化、88年に宇高連絡船と青函連絡船が廃止
中曽根元総理の遺産「民営化」 加藤綾子【3分でわかる】問題と解説は進学塾・サピックスが出題
などなど。
そういう目線で見てみると、古い表現や今はなきお店がどうしても目を引きますが、現代(2020年)につながる風光明媚な風景、レディメイドではないその土地の名産品、などを再発見できます。
たとえば土産として竹や木で作った素朴な民芸品がイチオシされているのは、最近のガイドブックであまり見ない印象です。
これは個人的な感想にすぎませんが、ガイドブックに載っている若者の間での流行や服装、旅の楽しみ方……これらすべては儚いもので、35年ほど経過した現代の目線で見ると古臭く感じます。
時の移ろいというものは残酷ですね。しかしその「古臭さ」や「格好悪さ」によってか、その時代を生きていない人間にも郷愁や懐かしさを与えてくれます。
いま生きているこの時間もしばらく経てば変色し、やがて思い出になっていく。どれが不変のものでどれが色褪せていくものなのか?こればかりは分かりませんから、日々の記録をとって時々思い起こすことが必要なのでしょう。
というわけでインスタントに旅行と郷愁を味わえる『古いガイドブック』を使った『バーチャル旅行』いかがでしょうか?
暇をもてあますと人間は過去を振り返るものなのかもしれませんね。
でも結局こういう郷愁とかって「あの頃若かった=美しき思い出」に過ぎないのかも……なんて。それに浸るのはとても心地よいのだけれど。
上の2曲は若かりし頃の失恋と過去へのノスタルジアを感じさせる名曲ですが、どう自分の過去と向き合って今を生きるか、これは不変的な人生の命題ですね。
(と言いつつ思い返すと大した過去がないことに戦慄しています)
つまりですね、なんというか、ますます旅行に行きたくなっちゃいました。
あー、そろそろ旅行も解禁されそうだし、さてどこへ行こうかな。
終わり。
(島鉄)