新快速。それはJR西日本の速くて便利な電車。
関西で古来より最高の価値とされてきた、「新」「快」「速」を体現する名前――というのはまったくの嘘ですが、関東にはない電車なのでもしかしたらご存じない方もいるかもしれません。
兵庫、大阪、京都、滋賀、福井を結ぶ長大な区間をほとんど特急並みの速さで、しかも特急料金なしで結んでいます。
運行区間のわかりやすい図をつくられている方がいたので引用します。
たとえば大阪から京都に行きたいときは、新快速なら約30分で行くことができます。三ノ宮までだと約20分です。
そんな新快速ですが、大阪から終点までそういえば乗ったことがないなと思いました。
というわけで終点駅の播州赤穂へ行ってきました!

都合により尼崎駅で撮影した電光掲示板
長い乗車でした。かかった時間は以下のとおりで、兵庫県に入ってからが本番でした。
大阪~三ノ宮(約20分)
三ノ宮~姫路(約40分)
姫路~播州赤穂(約30分)
新快速は兵庫県を横断しています。播州赤穂は兵庫の西端。隣は岡山県備前市です。
大阪から乗車した人たちは西に向かうにつれて徐々に少なくなり、姫路までにはその多くが降車していました。
ちなみに私も初めて知ったのですが、来年2026年に姫路駅と英賀保駅の間に「手柄山平和公園駅」という新駅ができるそうです。これはぜひ行ってみたい!かつて姫路モノレールの通っていたところですね。
というわけで播州赤穂駅に到着しました。

関東でも神田駅で同じようにアース製薬が広告を出していますね(あちらは本社前)。
改札を抜けると、南出口(モンダミン口)には「忠臣蔵」のどデカい書があります。インパクトがすごい。

もう夕方なのでこの日はチェックインして夕食を食べるだけです。
駅直結の東横インにお世話になりました。

めちゃ便利な東横イン
部屋は眺望が開けていて住宅地とすぐそばまで迫った山の様子が見えました。

北側を望む
夕食を求めて南口を散策します。
駅から出ると東横インの高さが目立ちますね。

駅の水平感と東横インの垂直感の対比
南口の東横インの反対側は「プラット赤穂」という商業施設とつながっています。
「プラット赤穂シネマ」という映画館が入っていて『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』がやっていました。至高のアニメーションなのでまだの方はぜひ観てください。

プラット赤穂。今年は国勢調査の年(5年おき)
夕食は駅から5分ほどの「赤穂野菜と地魚の店 五月」でいただきました。店名は『となりのトトロ』のメイとサツキが由来のようで、店内店外にジブリグッズがたくさん。ぷりぷりの刺し身と甘口の醤油がよく合っていて美味でした。

刺し身、美味
さて翌朝。
このところの気温上昇はすさまじくこの日も最高気温は36℃の予報でした。これだけ暑くなると、夏の街歩きは難しくなるなと年々感じています。
というわけで策を考えます。
まず移動は駅の観光案内所で借りられるレンタサイクルを利用します。風を受ければ多少涼しくなります。それに遠くまで行けるし。
そして行動は昼までとします。最も暑くなる午後の屋外行動は避けたい。
今回行ってみたいのは、赤穂城跡にある「塩と義士の館赤穂化成ミュージアム」、海に突き出た赤穂御崎の「きらきら坂」および温泉です。
まずは赤穂御崎を目指して、帰りがけに博物館に行くことにしました。
それでは出発!
赤穂城のなかには入りませんでした。お城は直射日光と照り返しがすごいだろうと思ったからです。一度真夏の名古屋城で大変な目にあったのが忘れられないのです…
お城のお掘り沿いに「名物討入そば」の看板が。討ち入りの深刻さがあまりなくて笑ってしまいました。

討入そば
自転車が風を切って進みます。海から吹いてくる風も気持ちいい。
「しおみライン」は自転車にうってつけの道でした。

千種川を渡る
赤穂御崎は海沿い高台です。坂を登る必要がありますが、自転車は電動アシストがついているので楽々です!この車体からはたまに鳥のさえずりのような(あるいはホイッスルキーような)音がしますがそれも問題なし。さえずり号と名付けると愛着が出てきました。
伊和都比売(いわつひめ)神社に到着しました。海に面して鳥居が佇んでいます。

鳥居
ここは平安時代からこの地にある式内神社です。航海安全で信仰を集めてきたとのこと。

拝殿
さて少し歴史の話をすると、1972年に国の政策で廃止されるまでこのあたりには塩田が広がっていました。かつて塩は国の管理化にあり専売だったのです。
赤穂では弥生時代から塩がつくられていたそうで、とくに江戸時代には広大な塩田が開発されて日本一の塩の産地として有名でした(このあと訪れたミューアジアムで知りました)。
江戸時代に塩事業で成功を収めたのが田淵氏です。玉垣にもその名前が見えました。
近くには田淵家が赤穂市に美術品を寄贈してできた赤穂市立美術工芸館 田淵記念館もあります。

境内ではほかに、石灯籠をよく見ると足が波の形をしていて、海ってかんじでかわいいです。

石灯籠
これは愛車のさえずり号。

さえずり号
神社の参道の横がきらきら坂です。眼下に広がる海。石畳の坂。風情があります。

きらきら坂
坂の下はゴツゴツした岩礁になっていました。畳岩と呼ばれているそう。
私にとっては今年の夏の初めての海でした。

畳岩
海への道沿いにはツユクサが咲いていて青色が鮮やかでした。

きれいなものを見て感動している間も汗は流れ続けてシャツはびしょ濡れになっています。それが夏というものです。
神社からすぐ近くに目的地のひとつ「潮彩きらら 祥吉」があるので汗を流すことにします。
この一帯には温泉ホテルが立ち並んでいて、赤穂温泉と呼ばれています。温泉はちょうど塩田が廃止される頃に開発されたようです。製造から観光へ産業の転換を図ったわけですね。

潮彩きらら 祥吉
瀬戸内海を眺めながらお湯に浸かっていると海と一体になります。
暑い空気も浴槽のなかではあまり気になりません。
ぼーと夏を感じます。暑さは夏の特徴のひとつに過ぎません。まぶしく輝く光、もくもくとした雲、虫の音もすべて夏らしさなのです。
温泉内の写真を撮れないので、赤穂観光協会の紹介写真を引用します。
温泉を出ると困ったことになりました。着替えのシャツがないのです。
温泉に入ることを思いついたのは昨日だったので、昨日の服を洗濯していればよかった…と悔やみます。選択肢は2つでした。
①びしょびしょシャツを着る
②昨日のシャツを着る
②を選んだのは書くまでもありません。しかしせっかく温泉に入ってすっきりしたので、帰りの電車はきれいな服で乗りたいところ。そういえば行きにファッションセンターしまむらがあったのを思い出しました。
復路でしまむらを目指します。これまでたぶん学生時代に1、2回入っただけです。
店舗の淡いピンクが空の青さとマッチしていいかんじです。

買ったのはワッフル生地のTシャツ。こういう四角い凸凹の生地をワッフル生地というと初めて知りました。このあと着たらサラッとした着心地で気に入りました。パジャマにもよさそうですね。

ワッフル生地のTシャツ
復路は知っている道なので早く感じます。
高い建物がありすぐに東横インとわかりました。目立ちますねえ。

東横イン遠景
赤穂城跡近くにある「塩と義士の館赤穂化成ミュージアム」に入館します。

すると竈門炭治郎が出迎えてくれて驚きました。

いやでもこれ、「ようこそ、赤穂城」とか言ってるし、炭治郎じゃないかも。だっていま無限城で戦ってて大変そうだし…。
この人は塩治郎なのではというのが私の見立てです。後ろに見える石釜で塩を焚いているのが塩治郎(リアル)で、パネルは塩治郎(アニメ)と解釈するのが適当でしょう。

竈門塩治郎
博物館の展示は、塩(1F)と忠臣蔵(2F)という構成でした。
塩のほうは、弥生時代から近代にかけて、海水からどうやって塩を効率よく抽出するかという課題に立ち向かった技術史として見ることができておもしろかったです。
私はふだんデータをあれこれするエンジニアなのですが、そこでやっていることととても似ているのです。大量のデータ(塩水)から必要なデータ(塩)を取り出すこと。当時の技術者の苦労や工夫の積み重ねを自分の経験と重ねて想像しました。
忠臣蔵のほうは、大石内蔵助による殿の仇討ち一大プロジェクトとして見ました。大石はプロジェクトリーダーとして目標達成(=吉良の首を殿の墓前に供える)のための計画を立て、浪士たちをマネジメントするわけです。江戸市中に浪士たちを潜伏させる手配したり、揃えの衣装を用意したり、当日の段取りを隠密に進める様子に優秀だなあと見入りました。また仇討ちについて当時の儒学者が道義にかなうのか不義なのか論じる様子も興味深かったです。そうした議論ができる社会は豊かだと思います。
博物館を出て、駅に戻ってきました。
駅直結のプラット赤穂で目をつけていた「赤穂らーめん麺坊」に入ります。

赤穂らーめん麺坊
いただくのは塩ラーメン。これだけ塩の展示を観てしかも汗をかいたので食べずにはいられません。
注文してでてきたのはどこまでも澄んだスープでした。まさに透き通る世界。美味しかったです。

塩チャーシューラーメン
播州赤穂に行ってみたらたくさん汗をかいて塩のことを知ることができました。
皆さんも新快速に乗って遠出をしてみてはいかがでしょうか。

