埋物の庭

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街中にあるつい見落とされがちで埋もれてしまっているもの(=埋物、まいぶつ)を紹介します。

はにわ通信 第13号「映画『Love Letter』の感想」

岩井俊二監督の映画『Love Letter』(1995年)を観た。

 

 

岩井俊二監督作品は、大学生のころ映画好きの友人と『リリイ・シュシュのすべて』『PicNic』『FRIED DRAGON FISH』『リップヴァンウィンクルの花嫁』を観た思い出がある。どれも美しい映像、美しい物語だと思った。

 

最近写真を撮るようになってなんとなく『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』『四月物語』を観て、改めてこの人の映像はすごいぞと感動した。そんな流れで本作を観た。

 

あらすじとしては以下のとおり。

神戸に住む渡辺博子は、亡くなった婚約者の藤井樹に、彼が昔住んでいた小樽の住所へ中学校の卒業アルバムをたよりに「お元気ですか」とあてのない手紙を出す。

すると思わぬことに藤井樹から返信が届く。しばらく文通を続けるうち、相手は藤井樹と同じ中学で偶然同姓同名であった藤井樹(女)と判明する。

樹(女)は文通で藤井樹との中学生時代の思い出を博子に共有する。また博子は藤井樹への思いを振り切るために、友人の茂と小樽を訪れる。

 

手紙のやり取りが続くので書簡体小説のような映画だ。

おもしろいのは渡辺博子と樹(女)を中山美穂一人二役で演じている点。儚げな雰囲気の博子と強気な樹(女)を別人のように演じ分けていてすごい。

 

この作品は藤井樹(男)をめぐるふたりの女の物語なのだが、彼はもう亡くなっている。なので映画の中盤で樹(女)の思い出のなかに中学生の姿で登場するまで謎につつまれている。ちょうど『桐島、部活やめるってよ』で最後まで登場しない桐島の立ち位置と似ている。中心の人物が語られるのみで登場しないことによって物語に引き込まれていった。

 

 

他作品との類似でいえば、偶然から他人同士のコミュニケーションが始まるという点で、濱口竜介監督の『偶然と想像』の第三話「もう一度」と似ている。あちらは元恋人と別人の顔を間違えたという偶然から互いの高校時代の思い出が語られていく。一方で本作の偶然は藤井樹が同姓同名だったことで、ふたりは樹(男)を介して過去の記憶を共有していく。

 

 

私は人と人がコミュニケーションを通じて理解しあう物語が好きだ。そんなことをいったらおおよその物語は該当しそうと言われそうだが、誠実さがポイントなのだ。本作は伝えたいという気持ちと知りたいという気持ちの誠実さが光っている。

 

さて、岩井俊二の映像は本作も素晴らしかった。まぶしい光につつまれる図書室、雪の小樽の風景。ずっと見ていたくなるほど美しい映像の快楽だ。

合わせて音の使い方もよかった。博子に思いを寄せていて樹(男)の友人でもあった茂が、ガラス工房で吹き竿を床に落として博子を驚かせてからキスするシーンは思わずハッとしてしまった。私はこういうロマンティックに弱い。

 

最後に街歩きブログらしく街について述べておきたい。

神戸と小樽という舞台設定が巧みだった。両方とも坂の街で展望が映えるし、文通するふたりに心理的なつながりを与えている。

岩井俊二監督作品は総じて舞台設定がよくて、その叙情的な作風を最大限引き出すようなロケ地で映像が撮られている。『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』のひなびた海沿いの町(千葉県旭市)、『四月物語』の"武蔵野"(幕張と国立)。

 

そのうち小樽に行きたい。