埋物の庭

埋物の庭

街中にあるつい見落とされがちで埋もれてしまっているもの(=埋物、まいぶつ)を紹介します。

タイムトラベル黒帯

いよいよ第3回目となりましたタイムトラベル講座。もうすっかりタイムトラベラーとしての自覚が出てきたのではないでしょうか。

タイムトラベルのお作法はこちら。

  • 古い観光ガイドの解説に従ってGoogleマップで検索
  • 現地を調べてみる
  • 今と比較してみる

この設定をだいぶ忘却してきたのですが、それも大きな時の流れに身をまかせ~ということでご容赦ください。時の流れには逆らえないのです。 

 

今回は松山市を遠く離れて、島鉄の帰省先である南の果ての愛南町をタイムトラベルしようと思います。

 

4 南レク

 

「キラっと南レク~」このフレーズに覚えのある方は間違いなく激動の昭和を生き抜いた人であるといえましょう。いやはやかなり大げさな言い方をしてしまいましたが、冒頭のフレーズは「南レクプール」のCMでも使われたものでして、ある世代には刺さるフレーズなのであります。

www.youtube.com

(最近のCMはゆるキャラが出演していますね。声の高さが明らかに無理してるのではないかと心配になります。あと脇役のツツ人というキャラが2秒で思いついたデザインと名前、って感じで好きです)

 

http:// https://www.pref.ehime.jp/h40180/5739/kikaku/12hyouka/nanreku.html

この南レクとは「南予レクリエーション都市」の略でして、高度経済成長期を過ぎてなお開発の遅れていた愛媛県南部(南予)の経済振興及び過疎化防止策として昭和40年代後半に打ち立てられました。

www.nanreku.jp

ちなみにこの南レク計画は昭和47年に建設省の「地方型レクリエーション都市」指定を受け、昭和48年に第3セクター「南レク株式会社」を設置し、これを事業主体として平成12年の南予レクリエーション都市整備事業廃止まで開発・整備を続け現在に至ります(事業廃止後も会社は現存していますが、ほぼ維持管理のみ)。

 

まあ、上記の説明を読めばわかると思いますが、もともと観光地でもない(といっても私が帰省しているのは平成に入ってからで、上記のジャンボプールで足がつかず恐怖を覚えた遠い夏の思い出くらいですが……)ため現在は寂れています。

 

このガイドブックが刊行された頃はドンドン開発されていた頃ですから、家族連れには自然も多いし丸一日楽しめるので割といいスポットだったのではないでしょうか。いまでもジャンボプールは盛況ですしね(まあ今と比べて人が集まっているとゆーのは当たり前な気もしますが)。

 

しかしなんといっても個人的には海を横切る「御荘湾ロープウェイ」が最高!

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水面を横切るのは格別の愉悦……な気がします。

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海を横切り眺めも良かっただろうと思わせる、空中散歩コース

回転エレベーター式の宇和海展望タワーへと続き、海を渡る空中散歩の世界へと誘ってくれる観光の目玉スポットです。

今じゃ絶対作られないでしょう。水面を渡るロープウェイは現在あまり残っていませんが、発想がワクワクするだけになかなか物悲しいですよね。

奥多摩湖の湖面を渡るロープウェイやラブライブ!サンシャイン!!で有名になった淡島にも海上ロープウェイ跡地がありました。どれも廃止済……)

 

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ラブライブでは一切触れられていないので見向きもされていないロープウェイ

 

 

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湖面を渡るのに不要では?とあっさり5年で廃止された奥多摩ロープウェイ(画像引用:https://spaicy.jp/okutama-ropeway

 

御多分に漏れず、御荘湾ロープウェイも今から14年前の2006年に廃止となっております。そして宇和海展望タワーも2019年に耐震強度の不足を理由に営業を休止しています。哀愁が漂うナァ。

 

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気づいたら廃止になっていた、撤去費用の問題からか鉄塔のみ残る御荘湾ロープウェイ



宇和海展望タワーはギリギリ営業中止前に行くことができました。何がおかしくて回転させるのか謎ですが、実際に乗った感想としては「もう少しだけ止まって落ち着いて景色を見せてほしい」と思います。回るスピード以上に降りるスピード早すぎ。

www.jalan.net

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なかはこんな感じです。YouTubeに在りし日の姿がアップロードされていますので、それを見ればもう十分かもしれません

もっともモーレツサラリーマン世代にとっては回転してるだけで面白いし、ゆっくりなんてしてられないのかもしれませんが。

昭和の三大回転といえば(勝手に認定)回転すし、回転レストラン、宇宙回転温泉……激動の昭和は間違いなく”回転”に価値があった時代でした。

平成世代に伝わらないのは時代の勢いが違うんでしょーね。

 

回転しながら上昇する、といえば琵琶湖大橋のすぐ近くにあった「びわ湖タワー」も有名ですね。

www.youtube.com

びわ湖わんわん王国」「イーゴス108」とあわせて滋賀県の観光スポットとして親しまれました。いまやすべて廃止になったのは夏草や兵どもが…の感があります。わんわん王国跡地に立ったピエリ守山も、リニューアルオープン前の閑散っぷりは会いに行ける廃墟として有名になりました。 

 

さて話がそれてしまいましたが、歴史を振り返ってみると南レクが廃れていく理由も一目瞭然でした。

運の悪いことにこの南レク計画はオイルショックの1年前、1972(昭和47)年が発端です。計画してさあ実行しよう、としたらオイルショック冷や水を浴びせられる。最初からコケてしまったというわけです。

この観光ガイドのできたころは景気も良くなっていましたが、バブルで観光に行くのはもはや団体ツアーで国内温泉……ではなくひとっとびで海外、とゆーわけで上がり目ナシのまま失われた30年に突入するのでした。

 

これからは維持管理も大変になってくるでしょうし、集客力のある施設以外は消えゆく運命ですね。なくなる前に早めに行かなきゃ、ともならなさそーなのがこれまた……。

 

もともと開発の遅れていた地域を盛り立てようとした計画ですから無理があるとは思うのですが、このままひっそりと地域住民からも特に愛着のないまま(県主導のため乗り気でないうえ、真珠養殖が始まってからは経済も安定し、海洋レジャー開発なんて邪魔でしかなかったのです)消えてゆくのでしょーか……。

 

 でもジャンボプールはひと夏の思い出になるので暇な愛媛県民と高知県民はいつか行ってみてください。波のプールの波が高くてすごいんです(小学生からみたら、ですけど)。あと紫電改展示館は規模こそ小さいですが、幻の戦闘機が保存されており一見の価値ありです。紫電改の模型は兵庫の加西市にもありますが、こちらはレプリカではないので。

 

5 時代を感じさせる紙面紹介

 

ではここで趣向を変えて、ガイドブックの紙面から時代を感じさせる表記や写真があったのでご紹介しようと思います。タイムトラベルというか年末の大掃除感が出てきましたね。

 

当たり前ですが、このガイドブック発行当時は1986(昭和61)年なのでギリギリ国鉄が存在しました。なので紙面もこんな感じです。

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松山城に競輪場と野球場が!2005年にどちらも市坪へ移転しました。

1年前に発足したJTやNTTも地図上ではまだ専売公社、電電公社マークの電話局(いまや電話局なんて行くこともないですね)があります。

この辺は新自由主義でいうところの民営化がすっかり完了した現代とは違うところです。そごうやダイエーも、このころは元気でした。

 

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瀬戸内海航路は縦横無尽という一文が添えられていた。いまや高速バスが縦横無尽に。

この年に3セクとして整備の決まった阿佐・宿毛のローカル線(いわゆる鉄道建設公団線の一部)は地図上に書かれていません。

さらには宇高連絡船もまだ残っていました。瀬戸内海航路も数多いです。瀬戸大橋の架橋は2年後の1988(昭和63)年ですからギリギリ前ですね。

 

 宿泊施設紹介も国民宿舎ユースホステル、民宿なんかが掲載されています。さすが貧乏旅行の若人向け?70年代から80年代にかけてはユースホステルも多くブームだったのです。巻末にあるペンションガイドなんかは特に時代を感じさせます。清里ブームとは何だったのでしょう。

 

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80年代が過ぎ去ったあとのペンション経営者は大変だろうなあ。

中には死語と化したこんな表現も。

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「タダ⇒只」から「ロハ=タダ」とゆー言葉が生まれたのでR。

文中にあるポンポン船も意味が通じないかもしれませんね。ポンポン蒸気として親しまれたおもちゃが有名ですが、小型の船で玩具と同様ポンポンという音をたてて走っていたためこの名前が付きました。

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左ききってなんぞ?と思ってしまいました。


zokugo-dict.com

左利き(ひだりきき) - 日本語俗語辞書

 

 左利きとは酒飲みを意味する。これは大工や石職人らが使う鑿(ノミ)からきたもので、“鑿”と“飲み”を掛けた掛詞である。多くの職人は左手に鑿を、右手に槌(つち=ハンマー)を持つが、ここから右手を槌手、左手を鑿手という。つまり飲み手=鑿手=左利きということで酒飲みを意味する。

 だそうなんですね。カツオの塩辛=酒盗というのも、酒飲みでないと分からないかもしれませんが、何となく字から意味を読み取れます。しかし、「いい飲みっぷりキミ左利きだねー」と言われてもポカーンとなってしまいそうです。

 

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東京に注目してもらうと寝台特急が現役だったことがうかがえる

こうしてみると新幹線よりも寝台特急は時間がかかる上に高いのでJR化後に軒並み廃止となったのも分かる気がします。2020年現在だと東京松山間が鉄道利用で約2万円、飛行機利用で4万円ですので新幹線以上に飛行機のほうがこの頃より高くなっているんですね。

ちなみに現在唯一残っている寝台特急の「サンライズ瀬戸」で東京高松間を移動すると運賃と特急料金を合わせて14,550円、シングル寝台料金が7,560円ですので物価変動を鑑みてもこの当時と変わらないくらいの料金で寝台列車の旅ができるようです。これって喜んでいいのかな?

 

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シャトーと聞くと京橋のグランシャトーを思い出してしまいますが、こちらは立派ですね

こういうお城みたいな施設といえばドラマにも使われる群馬県の「ロックハート城」が有名ですが、かのロックハート城もちょうどこのガイドブック発行と近い1987年から時間をかけてイギリスから移築(!?)されたそうで……。うーん、バブリー。

ちなみにこのシャトー三宝は2003年に閉鎖され廃城(?)となっています。

スカイラインとかシャレた名前の付いた山道をドライブしてランチと景色を楽しむのが一種のブームだった時代の産物ですね。

nibansenji.com

 

他にも1989年バブリー時代に作られた和歌山のホテル川久や1993年にオランダの国立博物館を模して造られた北神戸ホテルフルーツフラワーなど「カネ」の匂いがそこはかとなくするのが「なぜか田舎にいきなり登場する西洋のお城」の共通した特徴に思えます。全国津々浦々こういうお城は築城されていますので、いつかは百迷城巡りということで行ってみたいですね。

icotto.jp

(女子旅というよりバブルの跡を巡る旅なのでは??特にホテル川久……。)

 

なんか廃墟特集みたいになってしまいましたね。次でようやくタイムトラベルシリーズも終わりとなります。ではまた。

 

島鉄