埋物の庭

埋物の庭

街中にあるつい見落とされがちで埋もれてしまっているもの(=埋物、まいぶつ)を紹介します。

はにわ通信 第14号「春と短歌、ゆらゆら帝国とふわふわタイム」

春。桜が咲いたり年度が変わったりした。

 

先日近所にできたカレー屋でゆらゆら帝国が流れていた。

なぜだろう『3×3×3』はスパイスと相性がいい気がする。

 

わかってほしい

わかってほしい

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隣の友人に「ゆらゆら帝国だね」と言おうとして、「ふわふわ帝国だね」といい間違えた。「ふわふわ時間」に引きずられた。

 

 

最近『けいおん!』のアニメシリーズを観た。

山田尚子監督の『平家物語』を観て過去作を遡りたくなったのだ。

 

けいおん!』は傑作だった。

放映当時はキャラクターの可愛さにだけ注目していたけど、今はアニメーションとカメラワークのすばらしさ(雨の降る1日がそれだけで1話になってしまうすごさ)、日常とその終わりというテーマを正面から描いていることに感動した。すべての瞬間が青春の輝きを放っていた。

 

すっかり山田尚子に魅せられて、『たまこまーけっと』『響けユーフォニアム』と連続して観ている。

 

 

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短歌に興味をもって歌集を読んでいる。

 

①宇野なずき『最初からやり直してください』はタイトルに惹かれて手に取った。

 

 

 

自嘲的でユーモラスな歌がおもしろい。

以下すべて『最初からやり直してください』より。

 

深海に住めばあいつは光るだろう僕は両目がなくなるだろう

 

雑草にだって名前はある名前なんて僕らは気にしないのに

 

自身の人間社会でのうまくいかない境遇を自然界の深海魚や雑草に仮託して詠んでいる。卑屈さが想像力によって羽ばたいて作品になっているのだ。

 

一方で恋の歌もある。

そこでは暗い(けれど孤高の)世界に留まりきれなかったことへの後悔、妬んでいたはずの普通の人生を送ろうとしていることへの戸惑いも見てとれて沁みる。

 

ありふれたポエム製造工場の現場責任者になっていた

 

暗いから電気つけなよわたしたち深海魚にはなれなかったね

 

 

②永井祐『広い世界と2や8や7』。不思議なタイトルだ。

前作『日本の中でたのしく暮らす』もよかった。現代の短歌界では有名人らしい。

 

 

以下すべて『広い世界と2や8や7』より。

 

一人カラオケ わたしはなぜかしたくなく君はときどきやっていること

 

二年間かけて一回お茶するぐらい仲良くなれてよかった

 

閉店したペットショップを見つめてる青年サラリーマン まだ見てる

 

仕事するごはんを食べるLINEする 百均のレジに列ができてる

 

日常をそのままの空気で歌にしているという印象だ。

こういうことってあるんだよなという気分になる。

 

短歌っておもしろい。

おとめちっく公園に行ってみた

日本一ゲ〇が駅前に集中していると噂*1の街、高田馬場

駅前も再開発が進み、くら寿司の看板がいちだんと目立っております。

学生ローンの看板が目立っていた時代とどちらがましなのでしょーか。

 

どーも、未だ学生の街に心惹かれるモラトリアムな島鉄です。

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びっくらぽん

さて、この学生のにぎわう(コロナ禍で昔ほどではないと思いますが)高田馬場から神田川を渡って少し歩くと、都内で蛍が見られる素敵な自然公園があることをみなさまご存じでしょーか。

その名も……

おとめやま公園

かわゆい名前ですよね。

かわゆくて蛍って言うと、セーラーサターン=土萠ほたるですよね(←???)

もう、これはとっっっても、おとめちっくな公園ではなかろーか。

 

(↑↑唐突な広告。”おとめちっく”というワードがでてきます。同作者の『サムライうさぎ』って結局どーなったんでしたっけ)

 

草がピンクとか。蛍が光るのは求愛行動ですし、でっかいLOVE(ロバート・インディアナ謹製)オブジェとか置いてあるかもしれません。

 

それにしても、なんと雅な名前なのでしょう。それもそのはず、おとめやま公園は将軍にしか狩りを許されなかった禁猟地。「御留山、御禁止山」と呼ばれていたそうな。

おとめ山公園:新宿区

 

……ぜんぜんおとめちっくカンケーないですね。御禁止と書いておとめと読ませるのすごいな。

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神田川の上を黄色い西武の電車が走ります。この先にかつての将軍の鷹狩場があるのでしょうか。

ちなみに、江戸時代以降はおとめ山公園一帯は近衛家の所有となり、のちに用地を取得した相馬家の屋敷と回遊式庭園が造られました。この庭園が公園の原型となっているわけですね。

 

戦後は大蔵省に所有が移り、公務員住宅となる計画もあったそうですが、地元の陳情から落合秘境とも呼ばれる自然環境が守られ、現在に至るまで保全されているのだとか。

地元の人たちが環境を守ろうと立ち上がり、今も伝えられていることが素敵ですね。

 

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ありました。

徒歩10分もかからず着いた、お・と・め・の……山*2!!

さて、おとめ山通りをはさんで公園は2つに分かれています。平成26年に拡張して現在の大きさになったようです。その大きさは約2.75ヘクタールと、東京ドーム(4.7ヘクタール)の60%ほど。

いまいち伝わりにくい大きさですが、閑静な住宅街のなかにあることを考えると、それなりの広さです。

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何かよくわからない実が大量に落ちています。さえずる鳥も食べないとゆーことはあまり美味しくないのかな。

あとで調べたところ、この青い実の生る草はジャノヒゲみたいです。日陰に強く、庭園の下草としてよく用いられているそう。そのわりにこんな美しい色の実をつけるんですね。

 

またおとめ山公園は湧水があり、東京都の名湧水57選にも選定されているのだとか。

明治維新後、近衛家の所有地になり、大正年間に(相馬藩出身)相馬家がおとめ山公園西側部分を取得、長岡安平が設計した池泉を中心とした回遊式庭園を築造し、現在の原型となっているといいます。戦後は大蔵省の所有となっていたものの、昭和44年に新宿区立おとめ山公園として開園、園内の湧水は「東京都の名湧水57選」に選定されています。当地周辺は、江戸時代よりホタル狩りの名所として知られ、江戸名所図会にも描かれていましたが、開発に伴いホタルは姿を消してしまったことから、昭和48年からこの公園でホタルが飼育されています。

(出典:「猫の足あと」さんよりhttps://tesshow.jp/shinjuku/sight_uochiai_otome.html

東京の名湧水57選|東京都環境局

↑↑東京の名湧水には、都心と比較して自然の残された多摩地域のみならず離島地域も含まれています。面白いですね。しかし、57とはまたハンパな数字……。

 

前掲の公園地図に谷戸のもり、という表記がされています。

ここ、おとめ山公園は谷が入り込んだ地形となっており、それが谷戸と呼ばれているそうな。そして、公園のある落合地域は神田川妙正寺側の”落ち合う”ことが地名の由来となっています。

公園自体は落合崖線*3上に位置しています。

 

なるほど、公園入口から斜面になっているのは歩くと分かりますが、歴史的な意味だけでなく、地形的にも保全する価値のあるところなんですね。

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この日はすこぶる快晴。斜面緑地の上から見晴らすと気持ち良いですね。

湧水57選に入っているだけあって、おとめ山公園の小さな池と川には都心には珍しい生物がいるみたいです。

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見つけられませんでしたが……

無論、この貴重な自然環境を後世に伝えるべく生物をとるのはご法度、御禁止山(?)なのですが、公園管理の方からお話を伺ったところ唯一アメリカザリガニだけは取り放題みたいです。外来種で環境を破壊するからでしょうね。なんだか可哀そうな気もしますが……。

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でっかい鯉は見つけられました。鯉って広い意味では外来種ですね

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相馬邸および庭園のあったゾーンは谷戸の地形通りです

おおー、木道を渡って相馬家の屋敷・庭園のあった地区へ行くと、開けた斜面の地区とは違った印象を受けます。
なるほど、これは谷が入り込んだ谷戸の地形だとよくわかります。

前掲の鯉もこのゾーンにいました。他にはヒキガエルも。こちらの方が動物にとっては過ごしやすいのかな?と思わされます。

 

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公園管理所もそれっぽい外観をしています

公園管理所の目の前に白梅と紅梅が咲いており、まだまだ気温も低く花がほとんど咲いていない時期でしたが、春を感じて癒されます。

そしてその梅の木の後ろにあるのが蛍舎となっています。

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フェンスに囲まれているのが蛍舎です

夏になると蛍舎に暗幕をかけてその光を愛でるのだとか。

風流ですね。

夏は、夜。月の頃はさらなり。闇もなほ。螢の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。(『枕草子』冒頭)

夏は夜、のみ現代日本だとなかなか感じられないかもしれませんね。

アニメ『平家物語』でも、明りのない夜を描くことについて触れられていたなあ。

 

しかし、落合地域の人たちが江戸時代以来の蛍観賞を望み、地元の湧水で蛍を飼育しているのは素敵な試みですね。ちなみにゲンジホタル、ヘイケホタルどちらもいるみたいです。

 

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こわ……

ただそれ以上にインパクトが大きかったのはヘビの抜け殻と毎年駆除されているスズメバチ。自然環境をそのままに……という公園ですから、マムシスズメバチなど危険な生物もいるのですね。夏場は注意が必要です。

 

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かわいい猫と古いアパート。いい風景

そんなおとめ山公園を後にして、駅へと向かおうと思ったのですが、隣に小さな神社があることを地図で発見しました。

これは向かわなくっちゃ……と公園を出てすぐ脇の路地を進みます。猫も日向ぼっこをしている穏やかで静謐な住空間。

 

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かわいらしいお稲荷さまが鎮座しています。ここは東山稲荷神社。

由緒によると、源経基*4がこの地を治めていた時、時の帝である醍醐天皇に京都稲荷山から勧進するべく進言したのが始まりだとか。

 

源経基は京から下向して関東に入るも、平将門に追い払われ逃げ帰る……。その後、承平天慶の乱*5にて直接乱を平定することはなかったものの、朝廷から評価され鎮守府将軍となりました。

まさしく古代における武家の興りを象徴する人物の一人です。

 

ふーむ。なかなか歴史のある神社なのですね。小さいながら、境内は坂の上にあり眺めがとても良好です。そして、すぐ隣には「おとめ山公園」。

最後は武士のロマンを感じつつ、おとめ山一帯を去りました。

 

my-butsu.hatenablog.com

(↑↑まあ、ハマってますからね、『平家物語』に。『犬王』も楽しみです)

 

 

こんなところで最後は神田川のほとりでオチをつけようか……なんて思った矢先、とんでもないモノを見つけました!!

 

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呪術缶って禍々しそう

呪物です。

否、呪いよりもなによりも、この自販機”寺ッピング”*6されているではありませんか!!

大悲山観音寺なんてお寺さんが高田馬場にあるんですね。

 

都会にある心安らぐ異空間

……ホントに~?駅前の自遊空間よりも安らぐの~?

高田馬場の歴史と伝統はそこにある

……またまたあ~。

 

しかし、大悲山という山号がかかっこいいし、存在を知らなかった(無知)ので、向かうことにしました。

 

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めっちゃデカいストゥーパ*7じゃーー!!!!

前言撤回します。歴史と伝統も心安らぎ度もまだまだはかり知れませんが、山門くぐって5秒でストゥーパ、は度肝を抜かれました。

すごい。

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観音寺なのでとーぜん(?)観音様もいらっしゃいます。中性的なお顔立ちの観音像が多いイメージですけど、この観音様は凛々しいですね。

 

さらに境内を散策してみると、ななんと!吉川英治氏の石碑が!

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正面には”呼潮遍路”の文字が彫られていました。吉川氏の著作である『鳴門秘帖』となにか関係があるのでしょーか。

 

吉川英治氏というと『宮本武蔵』が有名ですが、『新・平家物語』も有名ですよね。

 

古代の庶民と武家・貴族の興亡……、西行や日本三大怨霊、崇徳上皇など武士以外にもスポットライトをあてた作品です。

 

なるほど高田馬場の歴史と伝統……のキャッチコピーも納得ですね。

 

あとすぐ近くに卵がメチャクチャ供えられてました。

え?!なんで?!と一瞬混乱しましたが、よく見ると蛇霊供養のようですね。

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たまごまみれ

なるほど、好物の卵をお供えしているわけです。にしてもこんなに置いて腐ったりしないのかな……。冬はいいけど夏とかどーなんだろ、といらぬ心配をしてしまいます。

 

そういえば、おとめ山公園にも長ーいヘビの抜け殻がありましたけど、新宿区とはいえ、意外とこの辺は生き物がそれなりにいるのでしょうか。

 

お寺を出て高田馬場駅へと向かう坂を下っていくと、学生街らしい居酒屋やチェーン店のみならず、タイ料理やベトナム料理の看板がチラホラ見えました。

 

難民受け入れの歴史から有名なミャンマー系のお店も多いです。

www.rakumachi.jp(↑↑なるほど、高田馬場にほどちかい中井の寺院にミャンマー人僧侶がいて、そのツテで……とは知りませんでした)


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最後にメチャメチャ中国語の看板が多くて、戸惑う高田馬場駅に着き、帰路へと向かうのでした。

自然→歴史→異国情緒。

高田馬場ってやっぱりカオスですね。そこがよい、のかな~?

 

(島鉄)

*1:ソースは早朝の駅前風景。タイトルとの温度差……

*2:伯方の塩のリズムでご唱和願います

*3:崖が一定の距離にわたり続く地帯

*4:清和源氏経基流の初代です

*5:いわゆる平将門藤原純友の乱

*6:寺社仏閣の宣伝のこと

*7:お釈迦様の遺骨=仏舎利を納める土饅頭型の塚

知らないまち、小川町

アッというまに今年度(令和3年度)も終わりましたね。皆さんのお住いの近くでも年度末予算消化のためとまことしやかに噂される謎の工事が多発していますか??

島鉄です。

 

唐突に語ります。いつだって語り部は唐突なのです(例:恐山のイタコ)。

わたしは神田界隈が好きです。

神田駅の高架下にある飲み屋街にはワクワクさせられます。

外神田、いわゆる秋葉原は”旧ラジオ会館のめちゃくちゃな構造“と”ホコテンのパワフルさ“に驚かされ、定期的に記事執筆*1のため、なんて理由をつけて月1回は行っていました。

ドールショップも岩本町駅近くにありますし。

 

my-butsu.hatenablog.com

それから前に訪れた神田明神ニコライ堂湯島聖堂……。

御茶ノ水を歩くのも楽しいです。肝心の楽器は全然わからないのだけれど。

聖橋から神田川をボンヤリ眺めていると癒されます。

中央線のホーム拡張だとかで大工事をしているさまは、けして美しい光景とは言えないのだけど、見入ってしまう。

 

神保町の古本屋にはあまり近づかないようにしている*2のに、ふとしたはずみで足を運んでしまいます。

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上記画像のとおり、新宿(と東京西部)→御茶ノ水(神保町)→秋葉原(岩本町)は大ターミナル新宿と東京を結ぶ「JR中央・総武線」と靖国通りの地下を潜る「都営地下鉄新宿線」で結ばれています。

御茶ノ水に神田、九段下・神保町、最後に岩本町、この辺は何度も足を運んでいるなあ、と実感。

 

ん?

ふと思ったのが小川町の存在です。なんか、ここだけ降りたことがないような……。

みなさま、いかがですか?行ったことあります??

 

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意外と近いのですよね、お茶の水楽器街。総評会館も気になります。

楽器にスポーツ用品、古本の街。近接していながら、御茶ノ水・小川町・神保町はそれぞれの街の違いをしっかり出しています。

あ、一度だけ登山道具を買いそろえるという友人についていき、訪れたことがありました。あれは小川町だったのか。アキバにもニッピンがありました*3し、神田界隈は登山者にフレンドリーな街です。

 

閑話休題。ちなみに小川町には神田から歩いて向かいました。どこからが小川町なのかよくわからなかった(←無知)ので。

 

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古いお茶屋さんが交差点の一角にまだ残っていることに嬉しさを覚えます

ここは神田司町。お茶の司園を背に外堀通り都道405号線)をズンズン北に歩いていくと小川町に着くみたいです。

www.tokyo-cha.or.jp(↑↑ほぼ情報が載ってなくて笑いました。店頭で様々な茶葉が並べられていて、素敵なお店です。が小川町を優先したためスルー。また来ます……!)

 

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再開発&古い店。混交する街、小川町

住宅街と昔から続く個人店、マンションに工場(こうば)……。

これは小川町、思った以上に街歩きポテンシャル*4が高いのでは??

 

まん延防止施策中ということもあり、飲食店は元気がなさそうでしたけど、細々と個人や零細事業所が頑張っている印象を受けます。

再開発でマンションなんかになるな!がんばれ!!と声をかけてやりたいです。

 

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初見では外観から何の建物か分かりませんでした

おや……?素敵なお店があるような。いやこれはお店か??

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酒屋さんでした。なんと工場併設です

会社?工場?ワインホール?

ぱっと見ナニも分からず、とりあえず小売りもしているようなので、恐るおそる店内に入ってみました。

kanda-konishi.co.jp

あとあと調べて分かりましたが、多様な顔を持つ小西株式会社さんだったのですね。

「再開発に負けるな!」と言うだけはよくない……と思い(あと日本酒買いたい、と思い)、愛媛の地酒「石鎚」を購入。

日本酒好き=辛口が好きな人、の多いイメージですが私は甘口派です。

根拠なく西日本の酒は甘口、と思っている*5ので「まじめえひめ」の酒を買ったわけですね。

 

奥の階段下にマニアックコーナーがあり、古酒が置いてありました。

お店の方に話を聞いたところ日本酒は1年以上寝かして熟成させると古酒と呼べるそうです。
もちろん開栓したらすぐ飲まなければいけないのですけど、自宅の冷蔵庫でもできるのだとか。ふーむ。こぶりな瓶で1年寝かして試してみてもいいかもなあ。

 

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また再開発されてる……。

スポーツ用品店街を名乗るだけあって、小川町にはウインタースポーツのお店と登山用品店が多いです。

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また、御茶ノ水に近いからか音楽関係のビルもあります。あ、QUEEN発見。

 

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このお店はナニ……?

人の手の下に「祝・決勝進出」の文字が。もうナニが何だか分かりません。

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ふもと(?)に近づくと、整体のお店だと分かりました。あと、決勝進出しているのは2Fのレストランでした。人の手、全然関係ない。

 

コインパーキングと個人店の間を抜け、前掲のロンドンスポーツの看板にも書かれていた神田テラスへと出てきました。

商業施設 [神田テラス] | 受賞対象一覧 | Good Design Award

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お洒落。ガラスで覆われたビルを見ると新しく感じますね(2020年代現在)

このお洒落空間にも当然、近所に通う学生たちの日常があるわけで、めっちゃ騒ぎながら恐ろしくシャレたカフェーのテラス前で爆笑してました。

街は急速に変わっても、人はすぐに変わらない。このギャップがいいですね。

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路地をさまよっているとこじんまりとした素敵なお社がありました。

稲荷社は豊作祈願のみならず商売繁盛を祈念して江戸時代に都市部でも多く建てられましたが、いまもオフィス街や繁華街にひっそりと息づいていて見つけると嬉しいです。

 

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お狐様のせいか、『論語』の「孤」がキツネに見えてしまいました。

小さいながらも、とてもキレイな境内に社殿です。徳は狐……じゃない孤ならずかあ。「誠実な言動、人を思いやる行動」をしなければ人が「来ん来ん」、狐立……じゃない孤立するのですね。

……笑点で座布団全部奪われそうなネタを思いついてしまいました。思いついたことはキチンと記しておかねばなりません。

このネタを思いついたときは「うまいっ!」と自画自賛したのだけどなあ……。

狐につままれたのでしょうか。

 

ともかく参拝を終え、喫茶店で小川町について記事を書くぞー、と意気込みます。

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狐バイバイ。

 

この五十稲荷神社の面する通りには多くの飲食店が立ち並んでいます。

中国、インド、ドイツ、九州……各国の料理が堪能できるスーパー路地なのです。

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明治45年、老舗ですね

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外観はそこまで古めかしくないの面白いですね

路地に歴史あり。

 

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あと、笑いながら怒る人こと竹中直人氏と『セーラームーン』作者の武内直子氏が合体したみたいな名前の歯医者さんを見つけました。

この看板の古い丸っこいフォントと、押してもホントに鳴るのか怪しいインターホンが好きです。

 

……意外にも神保町や御茶ノ水と比べると、小川町に非チェーン店の喫茶店は少ないようです。いや正確にはあるのですが、まん延防止のためか閉まっているのでした(まだ17時台だったのに……!)。

 

結局、神保町にたどり着いてしまい、入ったことのない店はあるかな……探してみると、おやこの店は……。

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素敵な看板。セイロン(スリランカ)の象徴であるライオンがお出迎え

もっぱらコーヒー党の私は紅茶を嗜む*6ことはないのですが、大阪は中津のカンテGで「チャイおいしい」と気づいてから少し興味が出てきました。

せっかくなので入ってみましょう。

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紅茶専門店って地下に作る決まりでもあるのかな(カンテGとここの2例のみで判断)

階段を降りるとそこは……地下とは思えないほど明るく(とーぜん)、落ち着いた雰囲気のお店でした。

 

ふーむ、一人のお客さんが多いのでこれは集中してブログ記事の執筆ができるぞー!

ちなみに地下なので電波が通りません*7でした。余計なことをネットサーフィンして時間を無為に過ごすことも防げますし、素晴らしいですね!!

 

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ポットには2杯分の紅茶。茶漉しもついています

鹿児島県産の紅茶、2ndべにふうきババロアを注文しました。

恥ずかしながら、国産の紅茶用茶葉があるなんて知りませんでした。

minorien.jp

sasanotea.jp

どうやらセカンドリーフのほうが香りと酸味が強いようです。

ババロアがそこそこ甘くてとろけるので、ちょうどいい……!

ちなみに二杯目を入れる時に、何を思ったのか茶漉しをガン無視してカップに淹れたため、茶葉本来の香りと触感を味わえました。茶葉をそのまま食べたい人以外は気をつけてください。

 

小川町散歩するはずが、結局浮気してしまったな。

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何枚もある救世軍本部の写真。私は記憶を消されているのでしょうか

神保町に来るたびに「救世軍の本部がある!?!」と写真を撮っている気がします。

社会鍋、最近見ないなあ(コロナだから?)。

www.salvationarmy.or.jp

そして衝撃のニュース。

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フリーペーパー『おちゃのおと』によると前から気になっていた「顔のYシャツ」が閉店していたのでした。

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ガ、ガーン

今回も小川町駅近くまで来て、看板を確認していたのですが、まさかお店は既になくなっていたなんて……。

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いつまでもあると思うな、顔のYシャツ。

 

知ってるまち、小川町。こんどは山道具でも買いに来ようかな。

 

(島鉄)

*1:驚く勿れ、私は中途半端に写真をまとめ、文章をダラダラ書いてアキバで何も買わずに帰ったことが幾度かあるのです。交通費のムダ?

*2:必ず本をアホほど買ってしまう。古い雑誌大好きなので

*3:2017年に閉店

*4:歩いていて楽しい度のこと。いま思いつきました

*5:対比として東日本は塩辛いイメージだからかもしれません

*6:ごめんなさい、嗜むって言いたいだけです

*7:私はポケットWi-Fiを使っています

夜行バスで聴きたいアルバム

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久しぶりに夜行バスに乗った。東京から大阪へ。

 

夜行バスにはたくさんの思い出があって、眠れない夜の間記憶をふりかえっていた。

 

安い夜行バスは快適さとほど遠い。

席は身動きがとれず眠りが浅くなる。腰も痛い。現地へ着くころにはいつもクタクタになっている。もう乗るものかと心に誓う。

 

けれど夜行バスでしか味わえない経験もあるのだ。

旅の始まりの気持ちの高ぶり。暗い車内でカーテンから漏れ入る高速道路の灯り。サービスエリアで吸う空気の美味しさ。そして闇のなかでイヤホンの音楽に身を委ねるあの時間。

 

それでは私が夜行バスで聴きたくなるアルバムを紹介しよう。

 

1 坂本真綾30minutes night flight』 
30minutes night flight

30minutes night flight

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30分のコンセプトアルバム。

表題曲は目を閉じて聴いていると空を飛んでいるような夢幻の感覚になる。それでいて日常の美しさを歌うバラードもあってじんわりくる。

 

高校生のころひとりで京都の大学へキャンパスを見に夜行バスに乗った。

カーテンの外を見るとバスはどこか知らない街の坂を登っていた。ふだん住む街を離れて遠くへ向かっていると思った。

 

街や国の あらゆる境界線を 越えていくよ 今夜あなたを乗せて

30minutes night flight

 

2 空気公団 『夜はそのまなざしの先に流れる』
天空橋に

天空橋に

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静かな夜が始まるアルバム。

 

夜行バスでは家にいるときよりも夜を強く感じる。明かりをつけられないからだ。

闇のなかでじっと時を過ごしていると、夜が身体に染み込んで、頭は普段考えないようなことを考え出す。時間は遡り、自分が生まれてから今までの記憶を辿っていく。引っ越す前に住んでいた街や家の風景。小学生のころの友だちとの会話。

 

記憶の時間旅行から帰ってくると、こうして旅行をしている今この瞬間がなんだか誇らしい。

 

天空橋に夜が落ちた ぼくは今すぐ迎えに行くよ

天空橋

 

3 パソコン音楽クラブ 『Night Flow』
Invisible Border (intro)

Invisible Border (intro)

  • パソコン音楽クラブ
  • エレクトロニック
  • ¥204
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夜のグルーブに身を委ねよう。

 

記憶はやがて郷愁へと変わりもう取り戻すことのできない輝きを放つ。

こうして旅をしている今もやがては追憶されるのだ。かけがいのない一瞬のなかに永遠を想う。

 

静まる街を彷徨い 揺れる煙を追うよ

Yukue

 

歌詞は批評目的で引用しました。

夜行バスの中では適度な音量で音楽を楽しみましょう。それでは!

【小説】さんぽ・まち・かんさい――見晴るかすビル

同人誌に、ボーイスカウトのキャンプに、上長が濃厚接触者……と新年早々いろいろ重なりまして、小説をアップするのにかなり間が空きました。

前記事を貼り付けときます。

 

my-butsu.hatenablog.com

これで4話目です。

3月ってことは、今年一年の四分の一がもう終わったのか……。早いな……。

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 東京スカイツリーという建造物がある。

ビルが林立する都心ではなかなかお目にかかれないけど、どこから見ても目立つため歩いて参ろうかと思いたち、歩けどあるけど着かないので何度か挑戦しては断念した思い出がある。

 

それと比べるとあべのハルカスはかなり目立つわりには、近くにあった。

無論、上町台地清水寺からは1.2kmとすぐ行ける範囲なので当然といえば当然だ。

千里のK大メインキャンパスからもあべのハルカスが見えるはず、とは会長の言だった。

梅田の高層ビル群に埋もれてそうだけど、日本一高いビルのあべのハルカスは群を抜いて高いのだとか。高い建物には人を引き付ける魔力がある。それはどこからでも見られるという要素のせいなのかもしれない。

 

周曰く、メインキャンパスのどこか高いビルに登れば、ハルカスだけでなく梅田の外れにある梅田スカイビル(高さ約170m)も見えるのではないかということだった。

会長が話すには岡山や徳島の山からも見える可能性があるそうだ。高い建物は人の心を惹くのだな……と思いきや当の会長はどうやら地ベタをずっと見ている。

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「あの、なんか見えるんですか?」

 正直、せっかくそれなりの料金(1,500円)を支払って高い場所へ登っているのだから地ベタより地平やら水平線の遠くを見たい、と凡人である自分は思ってしまう。

 

「しーっ。アカンて。会長は今、西の方を見てんねやから。」

ニヤリと意味深な笑みを浮かべると、量産型大学生(←いまいちリスペクトが足らない)こと、広報担当の岸里センパイはそう言い放った。

 

西、というと浄土。つまりヘヴン*1

そんなにいいものが映っているのだろうか。

大阪の西は果てしなく……というほどでもないが、海側なので建物はごくわずかで瀬戸内海と四国くらいしか望めないことは、関東人たる自分でもよくわかっていた。もちろん景色はいいのだけど、地べたともなると話は別だ。

 

「なぁ、こっからやったらコー……公喜くんの高槻キャンパスも見えるんちゃう?」

 周は3度目のハルカスにも関わらず楽しげだった。

1度目は生駒山の向こうの実家が見えるかで盛り上がり、2度目はヘリポートに上がって大コーフンだったと聞いた。

3度も同じところに登ってテンションが変わらない、というのは貴重かもしれない。

 

「もういいよ、コーくんで。高槻キャンパスって山の奥だから見えたとしてもわからないんじゃない?」

どうせだったら、場所を交換してほしい。たかつきハルカスとK大アベノキャンパス。

それだったらヒジョーに便利なのにな。

今以上に勉学に励まず遊ぶ学生が増加することは目に見えてるけど。

 

「ほら!あれ絶対そうやって!!」北東の端にある、一面緑色のこんもりした山を指さして周ははしゃいでいた。

うん、もうあそこ一帯が高槻キャンパスでいいよ。

 

真夏のオープンキャンパスで汗を流し、駅から40分ほどかけてようやくたどり着いた山奥のあのキャンパスは「めっちゃアルカス」にでも改名してほしい。

中に入ってからも無駄に広いし。高所にあり、緑が多いから涼しげなのは唯一の救いか(駅から歩きさえしなければ)。

 

「ほぉーっ、まだ夜には早いのに居るなぁ」

「また"飛田"観察ですか」

 会長がずっと西の方を見ていたのには理由があったようだ。いつの間にやらゴツい望遠カメラを持ち出している。

飛田……ダメだ京王線の駅しか出てこない。飛田給。農民に飛びながら田んぼを配給したのが地名の由来、と小学生の頃に聞いてほうぼうに嘘を撒き散らした記憶がある。

*2

 

「そういや飛田、って何があるんですか?」

「あ~、いまそれどころやないから気になるんやったら周クンに聞いてや」

なかなかに冷たい。そんなに惹かれるものがあるのだろうか。

 

「え、ボクですか……?あんまよう知らんのですけど」

「かいちょー、俺も実は詳しく知らんので教えてくださいよ〜」

含み笑いを浮かべながら岸里センパイもわざとらしく同調する。

 

見つめ合うのに夢中なカップルを除き、ハルカス300展望台の他のお客さんから明らかに怪訝そうな目で見られている気がする……。

飛田って気軽に話題に出せないマズいところなのだろうか。

 

「ま、端的に言うとアレやな、遊郭やわ」

平然とした顔で会長は、東京でも吉原とかあるやろ?と続けて言った。

 

たしかに吉原は時代劇にも出てくるので有名だけど、東京都民とはいえ自分は行ったことがない。ましてや日本一高いビルから遊郭が見えるなんて考えもつかなかった。

 

「ここら一体は明治時代までは元々、墓場のすぐ近くで、畑もある田舎やったから、まぁあんまし人の集まらんようなとこやってん。そんなとこに南の大火で商売場所を失った難波新地の遊女を移して……まぁスラムクリアランスの一環やな」

 

日本一高いビルからは新世界、いわゆる大阪のシンボル的な通天閣や梅田のビル群、瀬戸内海を眺められるけど、ここが元々そんな場所だったなんて想像もつかなかった。

しかも、遊郭が未だ残っていてそれを見られるなんて。*3

 

 時計を見るとすでに17時まで残り10分。ちらりと横目で見ると、望遠レンズをのぞき込むのに夢中な会長の様子から悟ったのか、岸里センパイがこのあと合流するサークル仲間に連絡している。どうやら決起集会とやらは延期するようだった。

向こうはむこうでキューズモール内のSHIBUYA109阿倍野店を冷やかしたり、Yogiboに全体重をあずけることに夢中だったようで、18時30分に新宿ごちそうビル前に集まることになった。

 

「ゴメンなあ、女子に会えるの楽しみにしてたと思うけど、しばし天空の景色に酔いしれててな」

どういうテンションのもっていき方なんだ。

 

「運いいとあべのべあに会えるらしいわ」

スマホから今しがた仕入れた情報で岸里センパイがフォローしてくれた。

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きっと壊滅的にフォローが下手くそなだけでいい人なんだろうな。

「あと、あべのべあって星空と夕焼けバージョンもあるんやて。ええよなあ」

スマホから顔をあげてニッコリと笑う岸里センパイに、「はあ」とひきつった笑顔しか返せない自分は、きっと壊滅的にコミュニケーションが下手くそなんだろう。

 

 とりあえず会長と岸里センパイから距離を置くため、展望台の北側へ向かう。

ちょうど周もいるみたいだ。助かった。

すでに展望台を一周してしまっている周はテンションがやや落ち着いたのか、はたまた会長の近くにいたくないのか、天王寺公園の方面をぼんやり眺めていた。

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「んー、いつ来てもハルカスは東西南北、どこも遠くまで見えるなぁ。にしても、こっから見ると通天閣めっちゃ小さいわ」

「あんな小さいのに子どものころ通天閣に登った時は大はしゃぎしてたよね」

 

 ……周は昔から高いところが好きなのかもしれない。

小学生の頃、夏休みに通天閣へ登ったときは周の祖母の家がある生駒山まで眺められることに感動したものだった。

しかし、「通天閣」の約3倍の高さの「あべのハルカス」に登ったら、いかに通天閣の展望台が低かったのか思い知らされる。

大阪万博の象徴である太陽の塔、四国と本州を結ぶ明石海峡大橋、北東に見えるのは京都タワーだろうか?天気が良い日は見られるとあるが、ひょっとしたら本当に京都タワーなのかもしれない。

 

 幼少期の思い出を語り、空を眺める二人がいる一方で会長はひたすら地べたリアンであった。

人は高いところに登ると、世界を手に入れたかのような傲慢さに酔ったり、遠くを眺めて遠い昔を思い出したりする。

でも、ここですべきなのは空虚な酩酊に浸ることじゃない、空を眺めるのは記憶の引き出しを開けるためじゃない……。今……この時を生きるため何ができるか考え、そして未来を切り開くにはどうするか想いを馳せるためなんだよ……!

 

そんな感じのことを言いながら会長はカメラを覗き込み一定の範囲内をウロウロしていた。遊郭覗きというデバガメ根性丸出し行為の瘴気を隠すために、あえてポエミーな言葉を吐いていたのかもしれない。

完全に逆効果だったけど。

 

 会長のすぐ横にいたはずの岸里センパイはいつの間にかいなくなっていた。

後で聞いたところによると、一緒にいると通報されそうなので、頃合いを見計らってヘリポートツアー

www.abenoharukas-300.jpに参加して「ハルカス〜!300~~!(なんのこっちゃ)」と絶景を見て絶叫していたそうだ。

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 高所で何をすべきなのかは人による(なぜか高いところに来ると叫びたくなるのは共通?)としても、大阪湾に沈みゆく夕陽を望めるのはいい気分だった。

 

「今日は夕陽丘行ったけど、なんやかんやビルも多いし“見晴るかすビル”あべのハルカスで沈む夕日を見るのが一番いいかもね」

と笑いながら右横にいる周に話しかけた。

 

返事がない。

 

「え、何なん……?」「こわ……」「行こーや」

 いつの間にか自分の隣には女子高生3人組がいたようだ。

そうだね、3人できゃいきゃい言ってるところに急に笑いながら話しかけられたらビビるよね。周は展望台をまた周遊してるのかな。前世は回遊魚だったのかもしれない。

 

ハルカス300に登り、大阪市内で夕日をみるならココ!という有益な情報と、自分の笑顔はおそらく爽やかな部類ではない、という悲しい情報の2点を得られた。

 

「コーくん、そろそろ行くよ〜。もうすぐ18時10分やし」

「うん……。だね、ここも出禁になったら困るし……」

 幸い(?)アホみたいにゴツいカメラを持ち徘徊する男、と女子高生に話しかける事案発生、という情報はあべのハルカス側に共有されなかったようで、このあとも何回かあべのハルカスには登ることができた。朝・昼・夕・夜……、あべのべあの模様のとおり、時間帯によって違う顔を見せる天空の展望台は、時間に都合をつけられる大学生としては高いけどいい暇つぶしスポットなのだ。

 

 

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「全然こーへんな、会長」

「だから言うたやないですかァ、こっちから迎えに行かないとダメやって」

「アンタ1時間前くらいに、どーせこーへんからAZUl寄ろうて言うてなかった?」

「いや~、たいして時間つぶせへんかったですね」

新宿ごちそうビルはあべのキューズモールから徒歩6分の位置にある飲食店街。

17時集合のはずが18時30分集合となり、時計はちょうど18時28分を指していた。

 

「私たちだけでもお店に先に入ったほうがええですかね?」

 

「うーん、せやんな。入ろか」

「そしたら会長から余計にお金貰いましょ、遅刻代くらい貰わないと割に合わへんもん。そうですよね?副会長!」

「アンタのそーゆーとこ、尊敬できひんけどすごいと思うわ」

「……そりゃ、どーもォ」

 

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ここが新宿ごちそうビル。思い切り壁面に新宿と書かれていてクラっとくる。ここは間違いなく大阪アベノなのだけれど新宿と書かれているのだ。

まあ駅近くに闇市の跡みたいな飲み屋街があって雑多な雰囲気を湛えつつ、再開発によって最新の施設が隣接する様は似ていなくもないけど。

 

「ここ、散歩サークルって聞いたけどそんなサークルにも女子部員いるんだね」

「なんやかんや散歩という目的さえあれば、なんでもできるからかもしれんね」

会長の機嫌を損ねることがないようヒソヒソ声で話す。

 

 壁のようにそびえる新宿ごちそうビルに当初の30分以上の遅れで着いたKKKK男子部員は女子部員からの無言の圧力を感じつつ、地下の某居酒屋個室に腰を据えるのだった。

 

 ああドキドキする。

自分と同じく何も知らずにつれてこられた、という風の新入女子部員と目が合い、思わず会釈する。

周も少し緊張気味だ。男性陣は会長がテキトーだからか弛緩しきった雰囲気だったけど、女性陣は眉間に若干しわを寄せるボブカットの女性(のちに副会長と分かった)を筆頭に若干「怒り」の満ちた雰囲気であった。

 

 とにもかくにも、自分にとって初めてのか゚顔合わせ・入部体験の話は、今になって考えると緊張しすぎにも思えるけど、あまり考える暇もないまま始まったのだった。

 


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・ハルカス300

 言わずと知れた日本一高いビル。東武鉄道東京スカイツリーといい、路線長の長い鉄道会社はランドマークを欲するのでしょうか。

小説中で紹介した通り、ヘリポートツアーをやっているほか、雨の日でもあべのべあ(雨Ver)に出会えるなど工夫を凝らしています。

 

 近鉄百貨店でお買い物→あべのハルカス美術館で絵画を愛でる→展望台で関西一円を眺望→マリオット都ホテルのレストラン・バーで食事を楽しむ

上記これらがすべて一つのビルで完結するというスゴさ(←金欠なので私はマネできません……)。

 

 ふもとには闇市の雰囲気を色濃く残した居酒屋街や、少し足を延ばすと飛田遊郭・あいりん地区のドヤ街もあるなかなかにディープなスポットでもあります。

チンチン電車阪堺電車上町線)の発着駅もすぐ近くにあり、オモシロイです。

 

*1:ちがいます

*2:実際は荘園領主の飛田氏から給された田、というのが由来だという。30%くらいはあたっているのではなかろうか

*3:とはいえ肉眼では飛田新地の様子はハルカスから見えませんが……

はにわ通信 第13号「映画『Love Letter』の感想」

岩井俊二監督の映画『Love Letter』(1995年)を観た。

 

 

岩井俊二監督作品は、大学生のころ映画好きの友人と『リリイ・シュシュのすべて』『PicNic』『FRIED DRAGON FISH』『リップヴァンウィンクルの花嫁』を観た思い出がある。どれも美しい映像、美しい物語だと思った。

 

最近写真を撮るようになってなんとなく『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』『四月物語』を観て、改めてこの人の映像はすごいぞと感動した。そんな流れで本作を観た。

 

あらすじとしては以下のとおり。

神戸に住む渡辺博子は、亡くなった婚約者の藤井樹に、彼が昔住んでいた小樽の住所へ中学校の卒業アルバムをたよりに「お元気ですか」とあてのない手紙を出す。

すると思わぬことに藤井樹から返信が届く。しばらく文通を続けるうち、相手は藤井樹と同じ中学で偶然同姓同名であった藤井樹(女)と判明する。

樹(女)は文通で藤井樹との中学生時代の思い出を博子に共有する。また博子は藤井樹への思いを振り切るために、友人の茂と小樽を訪れる。

 

手紙のやり取りが続くので書簡体小説のような映画だ。

おもしろいのは渡辺博子と樹(女)を中山美穂一人二役で演じている点。儚げな雰囲気の博子と強気な樹(女)を別人のように演じ分けていてすごい。

 

この作品は藤井樹(男)をめぐるふたりの女の物語なのだが、彼はもう亡くなっている。なので映画の中盤で樹(女)の思い出のなかに中学生の姿で登場するまで謎につつまれている。ちょうど『桐島、部活やめるってよ』で最後まで登場しない桐島の立ち位置と似ている。中心の人物が語られるのみで登場しないことによって物語に引き込まれていった。

 

 

他作品との類似でいえば、偶然から他人同士のコミュニケーションが始まるという点で、濱口竜介監督の『偶然と想像』の第三話「もう一度」と似ている。あちらは元恋人と別人の顔を間違えたという偶然から互いの高校時代の思い出が語られていく。一方で本作の偶然は藤井樹が同姓同名だったことで、ふたりは樹(男)を介して過去の記憶を共有していく。

 

 

私は人と人がコミュニケーションを通じて理解しあう物語が好きだ。そんなことをいったらおおよその物語は該当しそうと言われそうだが、誠実さがポイントなのだ。本作は伝えたいという気持ちと知りたいという気持ちの誠実さが光っている。

 

さて、岩井俊二の映像は本作も素晴らしかった。まぶしい光につつまれる図書室、雪の小樽の風景。ずっと見ていたくなるほど美しい映像の快楽だ。

合わせて音の使い方もよかった。博子に思いを寄せていて樹(男)の友人でもあった茂が、ガラス工房で吹き竿を床に落として博子を驚かせてからキスするシーンは思わずハッとしてしまった。私はこういうロマンティックに弱い。

 

最後に街歩きブログらしく街について述べておきたい。

神戸と小樽という舞台設定が巧みだった。両方とも坂の街で展望が映えるし、文通するふたりに心理的なつながりを与えている。

岩井俊二監督作品は総じて舞台設定がよくて、その叙情的な作風を最大限引き出すようなロケ地で映像が撮られている。『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』のひなびた海沿いの町(千葉県旭市)、『四月物語』の"武蔵野"(幕張と国立)。

 

そのうち小樽に行きたい。

茅ヶ崎と犬

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第一中学校歩道橋。富士山が見える。

 

茅ヶ崎に行ってきた。

叔父が家を買うらしく内覧に同行したのだ。

 

茅ヶ崎にはサザンオールスターズのイメージしかなかった。

行ってみると駅前は美味しそうなごはん屋があって、海岸沿いには屋根の赤い異国風の建物が建ち並んでいた。

 

住んでいる人はみな余裕がありそうで犬を連れている人が多かった。叔父も犬がいる。

昼は犬を連れて入れるレストランで食事をとった。どの犬もぼくより散髪代がかかっていそうだ。

 

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レストランの外で撮らせていただいたよその犬。目力がある。

 

犬を撮るにはコツがいるとわかった。

瞳にピントを合わせないと散漫な写真になってしまうので、瞳オートフォーカスを使うのだ。

ふだんは風景ばかりを撮っているので新鮮な経験だった。たまには人や動物を撮りたい。

 

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ヘッドランドビーチ

 

湘南はもう春を過ぎて夏のような暖かさだった。

夏には人でごった返した江ノ島がニュースで流れるだろう。

 

冬が終わる。